来週5/22(水)の引け後にエヌビディアの2-4月期決算が発表予定です。同社はAI関連物色の中心的銘柄であるため、テクノロジー株だけでなく、相場全体への影響でも注目を集める決算です。同決算に関わる周辺情報を整理して検討してみました。
図表1 主な言及銘柄
銘柄 | 株価(5/14) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
エヌビディア(NVDA) | 913.56ドル | 974.00ドル | 281.52ドル |
台湾セミコンダクター ADR(TSM) | 151.95ドル | 158.40ドル | 83.23ドル |
アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD) | 153.16ドル | 227.30ドル | 93.12ドル |
アルファベット A(GOOGL) | 170.34ドル | 174.71ドル | 115.35ドル |
アマゾン ドットコム(AMZN) | 187.07ドル | 191.70ドル | 109.25ドル |
マイクロソフト(MSFT) | 416.56ドル | 430.82ドル | 307.59ドル |
スーパー マイクロ コンピューター(SMCI) | 822.37ドル | 1229.00ドル | 135.55ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回は来週5月22日(水)に2-4月期の決算発表を控えるエヌビディアを取り上げます。
〇エヌビディア決算は相場全体からも注目
エヌビディアは同社の時価総額が2.26兆ドル(約350兆円)と、米国市場でマイクロソフト、アップルに次ぐ大きさとなっていることに加え、物色の柱のひとつになっているAI関連の中心的銘柄として相場全体に与える影響も大きくなっています。
5/7(火)の米Yahoo!Financeには、「エヌビディアはAI関連企業の業績が強いシーズンでミッシングリンクとなっている(Nvidia Is Missing Link in a Strong Season of AI Earnings Reports)」と題する記事が掲載されました。AIに関連する企業の決算は強いものが多いものの、最も重要な企業の決算がまだ出ていないないので、決め手を欠いているといった要旨です。
エヌビディアの決算期は2-4月期と多くの企業の1-3月期からズレているため、1-3月期決算の発表が一巡した後になります。AI関連企業の決算および見通しコメントからはAI市場は順調な拡大となっているとみられるものの、AI関連物色の行方を決定するイベントとして市場の注目が高まっているとみられます。
〇最近の株価の動き
エヌビディア株価は年初からAIコンピュータ市場拡大への期待を受けて、順調な上昇となっていましたが、3/8(金)に大きな陰線が出て、その後、大勢として800〜1,000ドルのレンジ取引に移行しました。
3/8(金)にはっきりした材料があったわけではありませんが、市場では同社株価に対して「バブルの可能性」が報道されたり、同社取締役らインサイダーによる株式売却が明らかになっていました。また、同日に台湾セミコンダクターが2月の売上高を発表していることも影響した可能性がありそうです。
4月に入ってからは相場全体が調整地合いの中、同社株も概ねそれに沿った下落となりました。大きな陰線が出た4/19(金)は台湾セミコンダクターが2024年の半導体市場の売上見通しを下方修正した日に当たります。
しかし、下方修正の要因はスマホやPC向けの回復が想定していたほどでないというもので、AI関連については引き続き非常に強いとコメントしました。このコメントを受けて翌日から株価の回復が始まり、足もとでは900ドル前後での推移となっています。
〇株式市場と企業決算を取り巻く事情
良い機会なので、株式市場と企業決算を取り巻く事情についてお話します。以前から株式投資をやられていた方々は、決算前になると企業アナリストから今度の決算は良さそうだとか、悪そうだとかいう個別銘柄レポートが出ていたのをご記憶されている方もいるかもしれません。
昔はアナリストが決算発表前に企業を訪問して、業績の動向について取材することが許されていました。そのものズバリは言わずとも、従来の想定に対して良いか悪いかぐらいは分かる程度のヒントは会社側が提供していました。
しかし、このような「選別開示」(アナリストを含む投資家の一部にだけ重要情報を開示すること)は、証券取引法上の違法行為となり(米国では2000年〜、日本では2017年〜)、決算前に一部のアナリストや投資家向けに重要情報を開示することはなくなりました。
このような変化の中で、まだ発表されていない企業の業績動向を探るためには、業界のマクロ統計や既に決算を発表した競合企業や取引先企業などの公開情報から予測するようになってきました。
このように特定企業の決算を予想する上で有用な情報が公表されるイベントを、米国の株式市場では「データポイント」と呼んでいます。次節では、エヌビディアの2-4月期決算に関連する「データポイント」をご紹介いたします。
図表2 エヌビディアの株価チャート(日足、6ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
エヌビディアの2-4月期売上および、その後の売上動向を占う上で参考になる情報として以下のようなものが公表されています。
周辺の半導体企業からは、2-4月期の売上は市場予想並みかそれ以上になったと考えられます。また、ハイパースケーラーやスーパーマイクロコンピューターの決算情報からは、今後の四半期も前期比プラスになる可能性が高いことがうかがえます。総じて好決算を期待してよいとみられます。
〇周辺の半導体企業
・台湾セミコンダクター ADR(TSM)
4/19(金)に2024年の半導体市場の売上見通しを従来の「前年比10%以上」から「同10%程度」に下方修正しました。要因はスマホ、PCの回復動向にあり、AI関連は引き続き強いとコメントしました。
5/10(金)に発表の4月売上が前年比60%増と、2月の同11%増、3月の同34%増から大幅に加速したことが判明しました。AI関連の需要がけん引するほか、家電に回復の兆しがあるとコメントされました。
・アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD)
4-6月期の売上見通しが市場予想を下回って嫌気されましたが、要因はゲーム向けの低迷とみられます。AIアクセラレーターの2024年売上見通しは従来の35億ドルから40億ドルに引き上げていますので、エヌビディアへのインプリケーションは悪くないでしょう。ゲーム向けは低調だとしても、エヌビディアの売上に占める11-1月期の売上比率は13%まで低下しています。
〇ハイパースケーラーの設備投資
・アルファベット A(GOOGL)
1-3月期の設備投資額は120億ドルで前年同期の63億ドルから大幅増となり、「内容は最も大きいのがサーバー、その次にデータセンター」とコメント、年内の四半期の設備投資額は、1-3月期と同等かそれ以上を見込んでいる、としました。
・アマゾンドットコム(AMZN)
クラウドサービス事業のAWSの設備投資額は2023年に484億ドルでした。生成AIおよび非生成AIに対する強い顧客需要に応えるため、2024年の設備投資額は前年比で「意味のある増加(meaningfully increase)」になると見込んでいる、とコメントしました。
・マイクロソフト(MSFT)
1-3月期の設備投資額は68億ドルでした。四半期の設備投資額は、クラウド・インフラストラクチャの展開に沿って前四半期比で増加していくと見込んでいる、とコメントしました。
・スーパー マイクロ コンピューター(SMCI)
エヌビディアのAIコンピュータをサーバーに組み上げてデータセンターに供給している会社で、エヌビディアのデータセンター向け売上との関連性が高いです。1-3月期の売上は38.5億ドルで前年同期比3.0倍となりましたが、市場予想を下回って嫌気されました。しかし、4-6月期の売上見通しは52.8億ドルですので、エヌビディアに対するインプリケーションは良好と言えるでしょう。
〇世界半導体売上の動向
5/7(火)に発表された3月分の世界半導体売上は459億ドルで、前年同期比15.3%増、2月比0.6%減でした。半導体市場の売上は季節性から年初に停滞することが知られていますが、その季節性に沿った動きと考えられ、可もなく不可もなくという結果でした。
当社企業調査部のレポートによると、エヌビディアが販売するGPU(画像処理半導体)を含む「MOS MPU」の売上伸び率は、昨年10月10.7%、11月22.2%、12月28.9%、今年1月33.1%、2月30.0%、3月36.8%と昨年末から伸び率が高まる傾向にあり、GPUの売上は好調に推移していると推定されます。
世界の半導体売上のうち10%以上を占めるとみられる台湾セミコンダクターの4月売上は前年比で60%増、2月比で21%増えているため、4月の世界半導体売上は、年初の停滞から浮上すると見込めそうです。
図表3 世界の半導体月次売上
※米国半導体工業会(SIA)データをもとにSBI証券が作成
エヌビディアの2-4月期の業績見通しと注目点をご紹介いたします。
〇会社の業績ガイダンス
2024年度4Q(11-1月期)の決算リリースで公表された2025年度1Q(2-4月期)の業績ガイダンスは以下のようになります。
・売上は240億ドル±2%の見込み。
・粗利率は76.3〜77.0%で±0.5%の見込み。
・GAAPベースの営業費用は35億ドル、Non-GAAPベースの営業費用は25億ドルの見込み。
・営業外損益は約2.5億ドルの見込み。
・税率は17.0±1%の見込み。
図表4に掲載した市場のコンセンサス予想は、概ね会社の業績ガイダンスに沿って予想数字が作られていることがわかります。なお、台湾セミコンダクターの4月売上高が大幅に伸びたことを受けて、先週から今週にかけて2-4月期の予想売上は5億ドル程度上方修正されています。
〇データセンター向けの売上は4.9倍へ
かつてはゲーム向けが最大の売上分野であった同社ですが、いまやデータセンター向けの売上が8割以上を占めるに至り、市場の注目もデータセンター向け売上に集中しています。
11-1月期の184億ドルから、2-4月期は210億ドル、5-7月期は227億ドルへの拡大が予想されています。2-4月期予想の210億ドルは前年同期比4.9倍へ大幅な拡大となる予想です。今回の決算発表で、これらの数字が上振れてくるか注目されます。
〇「推論」の割合がどうなるか
11-1月期決算の発表で筆者が最も重要だと思ったのは、「2023年にAI計算の4割は『推論』向けだった」というコメントです。これに関して、足もとで「推論」向けの計算比率がどうなっているかは、AIコンピュータの今後の需要を占うえで重要だと考えられますので、注目していきたいと思います。
AI計算の「推論」が重要である点については、4/3(水)掲載の【エヌビディアの決定版】 エヌビディアのAIを語り尽くす−2024年4月Updateの第1節に説明していますので、ご参照ください。
図表4 エヌビディアの四半期業績表
注:予想はBloomberg集計によるコンセンサス予想です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表5 エヌビディアのデータセンター向け売上
注:予想はBloomberg集計によるコンセンサス予想です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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