ギリシャ財政問題の行方とその影響
IMFがギリシャのデフォルト緊急計画を策定中?ユーロ圏各国はギリシャに厳しい態度(5/12追記)
5月11日のギリシャ支援を巡る協議は、ギリシャ側からの財政規律の明確化などの改革案を基に議論されたものの、最終合意に至らないままユーロ圏財務相会合を終了。それでも「ギリシャ協議の進展を歓迎、取り組み加速へのギリシャの意向歓迎」とするユーログループ声明が発表されたほか、ユーログループ議長も「ギリシャ、改革の一部実行と引き換えに融資の一部受ける可能性」と発言するなど前日の「財政改革案がユーロ圏各国の納得を得られるものでなければ融資再開は難しいとの姿勢」からやや軟化する部分も見られました。また、ギリシャは12日に期日が到来するIMFへの7.5億ユーロの返済を期限前に完了したものの、先行きの資金繰りが厳しい状況に変わりはなく、今後の協議の行方が注目されます。
2012年に決定されたギリシャ支援の枠組みが今年6月末で期限切れとなるだけに、それまでにユーロ圏財務相会合での合意、議会承認、各国の承認手続きを完了に漕ぎつけなければ72億ユーロの支援枠は延長できずに期限切れを迎えることになります。こうした背景を前提としてドイツをはじめユーロ圏各国がギリシャ支援に厳しい態度で臨んでいるようです。
今回、融資再開が留保されている72億ユーロの支援が仮に承諾された場合でも、2月に決定されたEUやIMFなど債権団からの支援は6月末までの4ヵ月間に限定されており、7月以降の支援延長が焦点の協議となる模様です。少なくとも7月・8月だけで約100億ユーロの国債償還を控え、公務員給与や年金支払いなどが滞る可能性が高まっており、10日にはWSJ紙が「IMFがギリシャのデフォルトの可能性で緊急計画を策定中」と報じるなど楽観的な見通しは大きく後退しているようです。
7月・8月の国債大量償還を控え、ギリシャの成長見通しは大きく下方修正
EUやIMFなどの支援グループに対し財政支援の延長を求め続けるギリシャですが、財政規律の明確化などの改革案を巡り5月11日、ユーロ圏財務相会合が開催されます。
5月5日、欧州委員会が公表した四半期経済見通しは、ユーロ圏成長率を1.3%成長から1.5%成長へ上方修正しましたが、ギリシャの成長率見通しは2.5%成長から0.5%成長へ大きく下方修正されており、依然として厳しい財政見通しになっていることが想像されます。
仮に、今回支援延長が合意を得られた場合でも、6月末以降も再三の融資延長を求める必要があります。ギリシャの改革案に構造改革を推進する真摯な姿勢が見えなければ、7月・8月の国債大量償還を控えて債権団からの融資延長は一層厳しいものと思われます。
それでも2011年のギリシャ危機の際に懸念されたスペインやポルトガルなどへの「負の連鎖」懸念は、南欧諸国の財政、経済が持ち直しているだけにリスクは限定されているようです。為替市場でもユーロドルが、3月半ばの1.0500ドル割れおよび4月半ばの1.05ドル台でのダブル・ボトムを形成、5月に入り1.13ドル台後半まで上昇基調を継続しています。
過去の値動き(ユーロ/米ドル)
出所:総合分析チャート 日足
過去の値動き(ユーロ/円)
出所:総合分析チャート 日足
今後想定されるシナリオは・・・ハイパーインフレ?ドラクマ復活も想定?
4月、ギリシャ政府は地方自治体などからのユーロ資金をギリシャ中銀に集約させる決定をして資金不足に備えていた行動からも、資金繰りに窮するギリシャ政府の厳しい状況が垣間見えています。
3月下旬あるいはそれ以前から一部にギリシャが『I Owe You (IOU)』という借用証書の類を発行し、公務員への給与支払いなどをユーロの現金支給からIOUへの証書によって代替していくと聞かれています。仮にこうしたことが現実となった場合、公務員などがIOUによって消費することになり、IOUがギリシャの新通貨として流通することになる可能性もあるかもしれません。当然、ギリシャ政府の財政問題が根本的解決を見なければ、IOUによって支払いを受けた商店などではユーロへの現金化が確実に履行されるか疑念が残ることになります。もしそうなればIOUは額面から割り引かれ、ギリシャ政府の資金繰りの悪化に伴ってIOUの発行額が増加し、最終的にはハイパーインフレへの道筋を辿ることになるようなシナリオも想定されます。
ユーロ設立にあたり域内統一通貨、統一金利を適用した壮大な社会実験として開始された仕組みそのものにユーロ離脱の規定はありません。しかしながら、ギリシャ国内でIOUが流通の主流になれば、ユーロ併合前のギリシャ通貨ドラクマの復活ということも考えられます。規定だけから判断すればギリシャのユーロ離脱はあり得ないものの、ギリシャ国内ではユーロに替わりIOUが通貨として機能、対外的貿易取引においてはユーロによる決済といった2重通貨制度という非常事態の例外的なケースもあるかもしれません。すなわち要人らが口にするように『ギリシャのユーロ離脱はありえない』といった発言は必ずしも憶測に基づくものではなく、事実に基づいた現実的路線の話かもしれません。ギリシャが新たな社会実験に踏み込むことになるのか、ここに紹介したシナリオは必ずしも非現実的な動きではなく、こうした想定がなされるほどギリシャの財政状態がひっ迫している表れかもしれません。
こうした動きを踏まえても尚、ユーロの対ドルでの1.0000j(=パリティー)を目指すシナリオは否定できないものの、以前に比べそのスピードは緩やかなものになるように思えます。(5/12一部修正)