トルコ選挙を終えて
2014年に就任したエルドアン大統領は、それまで過去3期11年に渡って首相を務めてきましたが、大統領就任によりイスラム系与党・公正発展党(以下AKP)を離党しました。憲法で特定の党への支持は禁じられているものの、実質的にはAKPの顔として、選挙期間中も、積極的なメディアへの登場や多数の集会出席を通じてAKP支持を強く訴えてきました。一院制のトルコ議会は議員定数が550議席、AKPの改選前議席は312議席と単独過半数を占めていましたが、エルドアン大統領が今回の選挙で目指した議席獲得目標は、大統領権限強化に向けた憲法改正のための発議を可能にする330議席、欲を言えば国民投票なしに憲法改正を可能にする360議席を目指した選挙戦でした。すなわち今回の選挙で議院内閣制から米国大統領並みの権限を持つ大統領中心の政治体制の確立を目指していただけに、エルドアン大統領への信任投票という側面もあった選挙戦だったともいえます。
総選挙の結果は6/8午前5時(日本時間)の段階でAKPの獲得議席は255議席(一部メディアでは258議席)と過半数に届かず、改選前に比べて大きく議席を失いました。今回の選挙でAKPの議席数減少に大きく影響したのは、トルコ議会で第4党となったクルド人系政党(以下HDP)に対する投票の行方でした。トルコでは全体の得票率が10%を超えない政党に議席が与えられませんが、HDPがこれをクリアする12.9%の得票率に達したため、HDPは80議席を獲得したことで、AKPの議席が減少しました。
選挙一週間前の世論調査の予想通り、AKPは憲法改正に必要な3分の2議席どころか単独過半数の確保すらできない状況となりました。最大野党の共和人民党(CHP)は133議席、民族主義者行動党(MHP)が82議席となりました。
AKPが勝利を収め、大統領権限が高まることになれば、大統領が批判しているトルコ中銀総裁や副首相を更迭することが予想されていただけに、両名が更迭される事態は避けられそうです。
AKPの獲得議席が過半数を割り込む事態となったことで、選挙結果が判明した後のトルコリラは6/8早朝から対ドルで2.75台と年初来安値を更新、さらに対円でも先週末の47円台前半から45円台半ばへ下落しました。
今後の焦点は40日以内に新政権が発足できるかに移ると思われます。新政権が発足し、政局を巡る混乱を避けることができれば、再度トルコ経済の立て直し期待も含め、トルコリラも反発することになるかもしれませんが、仮に新内閣発足が遅れることにでもなれば、政局の混迷を背景に、トルコリラが弱含む可能性も払拭できず、トルコは対ドル、対円などを中心に全面安となることも考えられます。
仮にトルコ政局が一層混迷し、トルコリラがさらに下落することになれば、現在7.50%の政策金利(1週間物レポ金利)の引き上げを含めた通貨防衛策を講じるかもしれません。そうした意味からもトルコリラの動向次第で6/23の政策委員会での利上げの可能性に注目する必要がありそうです。
今回80議席を獲得したクルド人系政党HDPの躍進に対する警戒感は強く、選挙期間中からHDPの集会で爆発事故が起こるなど、クルド人系を排除するような動きも見られていました。こうしたことも政局の不透明感を一層高める要因となる可能性もあるだけに、政局の行方を見極めつつエルドアン大統領の発言にも注目しながらトルコリラの動向を見ていく必要があるかもしれません。
直近の値動き(トルコリラ/円)
出所:FX総合チャート(30分足)
過去の値動き(トルコリラ/円)
出所:FX総合チャート(月足)