中国経済の行方と米国利上げのタイミング
先週末発表された8月の米雇用統計では非農業部門就業者数が17.3万人増と予想(22.0万人)を下回った一方で6月、7月分が上方修正され、直近3ヵ月の平均は22.1万人増と今年1月以降の月平均(21.2万人)を上回っており、悲観する数値ではない、との評価になりました。さらに、失業率が2008年4月以来となる5.1%まで改善、FRBが完全雇用と見なす5.2%から5.0%の水準に達したことから、今後賃金がかなりのペースで上昇していくとの期待が持てる数値となりました。実際、今回の雇用統計で示された時間給賃金は前月比+0.3%と予想を上回り、今年1月(+0.5%)以来の高水準を回復しました。
米非農業部門就業者数推移(万人)
※出所:米労働省
米失業率(%)
※出所:米労働省
強弱まちまちの結果となった雇用統計の結果を受けFRBの金融政策の行方が一段と不透明になったことでNY株式市場は売り先行となり、中国経済の世界経済への影響が読めないことも重なり、NYダウは先週1週間で540ドル(3.2%)の下落となりました。
ラガルドIMF専務理事は先週末のトルコでのG20で、「FRBは利上げ前に雇用と物価の強さを確信する必要」と早期利上げを牽制、さらにG7各国からは中国の構造改革の推進と為替政策の透明性などへの注文が相次ぐ結果となりました。
その中国では、9/1発表の財新(Caixin) 8月製造業改定値は47.3と速報値の47.1からは小幅上方修正されたものの6カ月連続での好不況の節目となる50割れとなり、さらに中国国家統計局発表の8月の製造業PMIは49.7と低下、半年ぶりの50割れとなり、2012年8月以来3年ぶりの低水準となりました。
中国・製造業PMI推移
出所:SBIリクイディティ・マーケット作成
中国は8/12に人民元切下げ、基準レートの算定ルールを変更したほか、市場では中国経済が想像以上に悪化しているとの懸念が上海株の一段安につながり、世界同時株安の引き金となりました。こうしたことを背景に今回のG20で「通貨の競争的な切り下げを回避」と声明に盛り込まれるなど、名指しは避けたものの中国に対する各国の注文は厳しいものとなりました。
8/25に中国人民銀行は1年物貸出・預金基準金利をそれぞれ0.25%引下げたほか、預金準備率も0.50%の引下げを実施、一旦株式市場は落ち着きを取り戻したかに見られましたが、市場が求めているのは中国の財政政策ではないかと思われます。
9/3に実施された70周年戦勝パレードで、世界がGDP世界第2位の地位にある中国に求めたのは、国内経済および世界経済に対しての中国の役割について何らかの言及がなされるかでした。しかし、習近平国家主席の発言の中には、求められるような発言はなく、軍事力を強調する印象だけが残る内容となりました。この内容を受け、中国からの投資マネーを引き揚げる方向で検討を進めるほか、新たな投資マネーを流入することに躊躇する海外投資家の姿が見られました。
G20での中で、中国・楼継偉財務相は「7%前後の成長は向こう4〜5年は続く」と、発言した一方、周小川人民銀総裁からは「バブルが弾けるような動きがあった。」とバブルの発生を認めるような発言も聞かれ、中国発の株安について、これまで以上に踏み込んだ説明がなされた可能性もあるかもしれません。通貨安競争をしない、グローバル経済成長を促進する他は明示的な危機への対策が打ち出されたわけではないために、現状では自立的な回復にゆだねられています。
直近の値動き(人民元/円)
出所:FX総合チャート(日足)
直近の値動き(米ドル/円)
出所:FX総合チャート(日足)
今、米国はまさに利上げ開始への最終的な判断時期に差し掛かる一方で、政府・日銀は物価上昇率2%を2016年前半までに達成する努力を継続しています。その観点からは、これまでのドル高・円安基調が続くとの見方を変える必要性はなさそうです。
しかしながらここへ来て、前述したように中国経済の先行き懸念を中心に世界的な株価下落にともなうリスク回避姿勢が強まっています。日経平均も節目の20,000円どころか重要なサポートラインでもある7月のザラ場安値19,115円よりも低い水準まで売られています。ドル円も7ヵ月ぶりの水準まで反落しています。上海株の次の変化は、天津で起きた爆発事故の影響による中国の社会安全管理体制への懸念から、外国資本引き揚げや新規の中国投資を躊躇させるような動きが確認されてからと思っていましたが、その前に大きく下落してしまいました。しばらくは中国だけでなく世界的な金融市場の動向から目が離せなくなりました。
米国4-6月期GDP改定値は+3.7%、7-9月期も2%台半ばから後半の成長率が見込まれており、いずれもFRBの掲げる長期均衡の成長率(2.0%〜2.3%)を上回っています。しかし6月FOMCで示された2015年成長率見通しは3月時点の見通し(2.3%〜2.7%)から、1.8%〜2.0%へ下方修正されました。この状況を受け、イエレン議長は「年内利上げが適切」と発言、すなわち経済データはいつでも利上げできる環境にあるともいえる状況にあるだけに、結局は世界同時株安が沈静化するかどうかを見極めるタイミングに落ち着くことになりそうです。
今後のポイントは、9/16-9/17のFOMCに向けて米国の経済指標および世界的な株式市場の動揺が沈静化するのか、そのために中国をはじめとする各国から何らかの手立てが打たれるのかが注目されます。こうした中で、現時点では具体的なスケジュールが明らかにされていないものの、習近平国家主席の9日間に及ぶ訪米、米中首脳会談が予定されています。習近平国家主席の訪米期間中の上海株を震源とする世界的な株式市場の混乱は避けたいとの憶測が聞かれるものの、帰国後の10月に予定されている『五中全会』まで中国当局からの財政政策、景気刺激策は棚上げされる可能性もあるだけに中国情勢からは目が離せません。仮に10月に中国の『五中全会』で財政政策が示され、株価が落ち着きを取り戻すことになれば、10月の米FOMCでの利上げの可能性もあるのかもしれません。