米利上げ実施の影響を見極める2016年
前回のFOMC振り返り
FOMCメンバーによるFF金利の誘導目標の見通し
- 出所:Bloomberg
FRBによる経済見通し
- 出所:FRB
先週のFOMCの注目点の一つとされたドットチャート(FOMCメンバーによるFF金利の誘導目標の見通し)によると、2016年末のFF金利予想の中央値は、1.375%と9月のFOMC時点と変わらない結果となりました。ここから算出される2016年の利上げペースは、タカ派寄りとなる「年4回」となり、事前の予想(来年2回)と乖離する結果となりました。一方、2017年が前回の2.625%から2.375%、2018年も3.50%から3.25%へとそれぞれ中央値が切下げられ、長期的な先行きについてはハト派に傾きました。
先週末12/18、原油価格が35ドルを割れ、日銀金融政策決定会合での追加緩和とは言い切れない『補完的措置』による日経平均やドル円が乱高下した後のNYダウは10/14以来、約2ヶ月ぶりの安値(16,924.75ドル)で取引を終了しています。
従来の利上げ(=金融引締め)局面はインフレ下で実施されており、利上げ以降の経済指標からインフレが沈静化したと判断した段階で利上げ終了とされました。現在の経済情勢に比べ、どの程度の利上げが必要か、どのタイミングで引き締めが終了するか、ある程度想定が容易だったと思います。
今回の利上げ判断について、失業率は正当性を裏付ける内容になっている一方で、物価やインフレ率などが果たして今後の複数回の利上げを必要とするのか疑問視する見方もあるようです。当初、利上げ開始は米国経済の好調さの象徴として、NYダウは一時259ドル高まで上昇しましたが、その後の2日間で大幅な下落に転じました。米国経済の先行き不透明感、すなわちFRBの利上げ開始による米国経済先行きへの影響が明確に見えてこないというある種の『霧』が市場を覆っているとの見解も聞かれているようです。
実際、FOMC後のイエレン議長は会見の中で『海外情勢が成長リスクに影響を及ぼす、景気回復は段階的なプロセスになる公算、賃金の伸びは持続的な上昇を未だ示すに至っていない』など幾つかの先行き下振れリスクに言及しています。一方のECBと日銀の金融政策は共に『緩和政策継続』の方針に変化はないものの、12/3のECB理事会では市場予想ほど規模の大きい緩和策は示されず、債券買入れ期間の延長に留め、債券買入れの増額や購入対象債券の拡大にまで踏み込みませんでした。また、12/18の日銀政策会合でもETF購入枠の新設(3000億円規模)を決定したものの、過去に買い入れた株式の売却に伴う市場への影響を抑制することを目的とした「補完的措置」という扱いに留まりました。
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今後の相場展望
来年2016年の株式・債券・為替市場の行方を占う上では、日米欧それぞれの金融政策が大きな影響力を及ぼすことになると思われます。但し、利上げを開始したFRBを含め、特にECBや日銀には、今後の明確な政策に対する方向性が今一つ見えにくくなっており、その意味では不透明感が払拭できない状況が続くことになりそうです。まして日銀の金融政策を巡っては来年夏の参院選が衆院選とのダブル選挙となるなどの思惑も絡み、追加緩和実施の可能性とその時期を巡って様々な憶測を呼ぶことになりそうです。
2016年は、日欧のディスインフレからの脱却が進展するのか、米国経済の利上げの影響とともに、カギを握ることになることは言うまでもありません。さらに原油価格の下落がどの水準で底打ちとなるのか、FRBの利上げペースにも多大な影響をもたらす可能性もあるだけに引き続き注目する必要がありそうです。原油安には当然好影響、悪影響の両面があり、企業の設備稼働や輸送コストの削減を通じて、利上げによる企業負担の軽減にどれだけのメリットをもたらすのか原油安の功罪も来年の経済を占う上で重要なファクターであることは間違いありません。
FRBが利上げに動きましたが、市場の流動性がすぐに適正化されるわけではなく、依然として市場には大量の「余剰資金」が溢れているのも事実です。今後の米国の金融政策の行方(利上げ回数、利上げの幅)に対するECBや日銀の対応、さらには新興国からの資金環境がはっきりと見えてきた時点で、市場の不安が拡大するのか確認する必要がありそうです。9年半ぶりに実施された米国の利上げが世界経済回復の糸口といった転換点になるのか、あるいは今回の利上げが結果的に時期尚早という誤った判断であったということを証明する結果を招き、米国のみならず世界経済の減速に結びついてしまうのか、大きな分岐点の訪れも、さほど遠くない時期にありそうです。
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