円高懸念を払拭し、株価の反転につなげられるか?
先週末発表された米3月雇用統計は就業者数が予想を上回ったほか、時間給賃金も前月比+0.3%と予想を上回る結果となった一方、失業率は5.0%と前月から上昇、製造業の就業者数が2ヵ月連続で減少しました。また、米3月ISM製造業景況指数の景気指数は昨年10月以来、好不況の節目とされる50.0を上回ったものの、雇用指数は4ヵ月連続で50.0を下回ったままの結果となりました。
米雇用統計 非農業部門 就業者数(万人)
米時間給賃金 前月比(%)
米失業率(%)
米国労働市場の改善継続が確認される結果も見られたものの、3/29のイエレン議長の金融政策の先行きに対してのハト派的な発言に対する思惑が見直されるほどの強さはなく、米長期債利回りの低下を通じて先週末4/1のドル円は112円46銭を高値に111円58銭まで下落しました。一方でNYダウは緩和継続を好感して、107ドル高、先週1週間で1.6%上昇するなど、S&P500指数とともに年初来高値を更新したほか、ナスダックも4,900Pts台まで回復する堅調な値動きを続けています。
NYダウの推移
出所:SBIリクイディティ・マーケット
日経平均株価は、先週末発表された日銀短観が予想を下回ったほか、大企業製造業の2016年度想定為替レートが117円46銭と現状水準から6円近い円安想定となっています。現状の企業の収益見通しは僅か2%の減益予想に留まっていますが、今後も引き続き円高傾向が定着するようなことになれば、企業収益の下方修正は必至との見通しも強まっており、先週末の日経平均は594円安の大幅下落となるなど、先週1週間を通じても5%近い下落となりました。
先週1週間の世界の株価騰落率を見ると、NYダウが約+1.6%、ナスダックが約+3%とそれぞれ上昇したほか上海株も約1%上昇しました。一方で独DAX指数は0.6%下落、原油価格の下落を背景にサウジアラビアの株価指数も2%下落していますが、日経平均株価の約5%の下落は突出し、主要株価指数のなかでの下落率が最大となってしまいました。
安倍政権が発足した2012年12月以降、昨年度末まで年度終値ベースで継続していた円安・株高の流れもこの3月末で途切れたことになります。
(2014年度末:ドル円120円17銭/日経平均19,206円 ⇒ 2015年度末:112円57銭/16,758円)
日銀短観
出所:SBIリクイディティ・マーケット
日経平均株価推移(2015/8/1〜2016/4/1 日足)
出所:SBIリクイディティ・マーケット
米国ではイエレン議長が超がつくほどのハト派に転じたと揶揄されるような発言を繰り返し、株高を側面支援した一方で、黒田総裁は景気認識、物価見通しの強気姿勢を崩すこともなく日銀とFRBの景気に対する姿勢の違いが、株安円高に少なからず影響を及ぼしているかもしれません。四半期末のNYダウは小幅安となったものの、2/11の2番底(15,503ドル)から1ヵ月半の間に2,200ドル超反発するV字回復を遂げ、1-3月期を通じて260ドルほど上昇しました。
一方、日経平均株価は2/12に付けた14,865円の安値から3/14の17,291円へ2,400円以上の反発を見せたものの、昨年末の19,033円から3月末の16,758円まで1-3月期だけで2,275円の下落となりました。こうした状況下、ドル円も昨年末終値の120円20銭から3月末の終値112円57銭まで7円60銭も円高が進んで1-3月期を終えています。
米ドル/円の推移(日足)
出所:SBIリクイディティ・マーケット
先週3/28に発表された米2月個人消費支出コア・デフレータは前年比+1.7%と前月と同様の結果となりました。昨年1年間のコア・デフレータの平均値である+1.3%からは改善の兆しを見せていますが、依然としてFRBの掲げるインフレ目標(+2.0%)に届いていません。
しかし、名目金利が上昇せず、期待インフレ率が上昇していることから米国の実質金利は低下しており、日本の実質金利(=名目金利−期待インフレ率)がほぼゼロ%か僅かなプラスとあって、日米の実質的な金利差は縮小しています。
こうしたことが円高の一因となっており、それが日経平均株価の下押し圧力にもつながってしまう悪循環を生じさせています。ドル円が3/17に付けた110円67銭を下回ってしまうと110円割れを目指して円高が加速するともいわれています。株価下落と円高進行のどちらか先に歯止めを掛けるにしろ、対応策が待たれます。
5/26-27の伊勢・志摩サミットに向けて議長国である日本が世界の経済成長の足かせにならないためにも、5兆円〜10兆円規模の補正予算を含めた景気刺激策に加え、消費税増税の凍結などの成長戦略が待たれます。円高懸念を払拭し、株価の反転につなげることができるか、安倍政権にとっての手腕が問われる正念場かもしれません。