EU離脱交渉開始までは、ドル/円は落ち着いた動きで推移か?
先週木曜日、一部通信社から「本田前内閣官房参与が今年4月の訪米の際にバーナンキ前FRB議長と永久国債を議論した」との報道が伝わりました。ここでいわれる「永久国債」とは、償還期限のない永久国債を政府が財投資金の調達のために発行し、それを日銀が引き受けることで、償還の裏付けもなく金をばらまく「ヘリコプターマネー」として意味づけられました。
参院選で与党が圧勝した流れに続き、一部無所属議員の自民党への入党も含め、参議院でも自民党が単独過半数の議席を得たにもかかわらず、安倍首相は7月11日に財政出動を含めた大型の景気対策を指示し、来週の日銀政策会合での追加緩和策への期待を高める引き金となっています。
主な経済イベントとドル/円の動き
6月16-17日の日銀政策会合では、FOMCと同調するように、6月24日のEU離脱を巡る英国の国民投票の行方を見守るとして、日米ともに『現状維持』を決定しました。その後、EU離脱を決定した国民投票の責任を受けて辞任する英キャメロン首相の後任としてサッチャー首相以来の女性首相となるテリーザ・メイ新首相が誕生しました。さらに閣僚人事の人選も速やかに進み、緊縮財政を主張してきたオズボーン前財務相に代わりハモンド財務相、さらには外相にジョンソン前ロンドン市長が就任したほか、EU離脱担当相にデービス氏、国際貿易相にフォックス氏を起用するなど、いずれもEU離脱推進派を据える人事となりました。
英国政局の動揺は一旦収束し、今後、EU離脱交渉を開始するまで、しばらくは落着いた動きとなるかもしれません。
キャメロン政権とメイ新政権の政策
キャメロン前政権 | メイ新政権 | |
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財政政策 | 2020年までの黒字を目指す緊縮財政 | 規律重視ながらインフラ整備の国債発行も検討 |
移民政策 | 移民制限でEUと合意 | 労働者の移民の自由を認めず |
格差是正 | 都市偏重、大企業優遇 | 低所得者、若者に配慮した社会改革の必要性 |
さらに7月8日に発表された米6月雇用時計が予想以上に堅調な内容だったこともあり、ドル/円は7月8日の99円99銭を下値に18日には106円24銭まで上昇、日経平均も先週1週間で9.2%も上昇して、5連騰となる円安・株高が進んでいます。参院選での与党圧勝となって以降、懸念された憲法改正に注力するとの懸念が薄れ、景気対策に取り組む政府の姿勢が評価されているほか、財政政策が動き出すことになれば、日銀の金融政策を打出す市場環境も整ったとされてきたようです。
7月1日に発表された5月の消費者物価指数(コア)は、前年比-0.4%と3ヵ月連続でマイナスとなり、6月時点の1年後の企業物価見通しも前年比+0.7%に留まる過去最低を更新しました。日銀が供給したマネタリーベースも6月には初めて400兆円規模に達したものの、デフレ脱却からの道筋を具体的に描くことができていません。日銀は4月の展望リポートで2%の物価目標達成時期を「2017年度前半」から「2017年度中」に変更させたことを含め、過去1年間に4回も修正しています。さらに4月時点では110円だったドル/円は、一段と円高が進んだことによる物価下押し圧力の影響も無視できなくなったことから、今回7月の展望リポートでは2%の物価目標達成時期をさらに修正してくる可能性もあり、こうした背景も追加緩和観測の根拠になっているようです。
消費者物価指数(コア 前年比 %)
4月27-28日を前に「日銀は金融機関が資金を預ける当座預金の一部にマイナス金利を適用していますが、金融機関への貸出にもマイナス金利の適用を検討する案が浮上」していると報じたことで、追加緩和策への期待が膨らんだことから、円安・株高の流れとなりました。しかし、結果は『現状維持』となり、期待が失望に変わってしまったことで金融市場は株安・円高に転じた経緯があります。
果たして、来週の日銀政策決定会合は4月の二の舞を避けることができるのか、今後のドル円の行方を占う上で注目されます。