8月のISM非製造業景況指数は予想を下回り、FOMC9月利上げはどうなる?
9月2日発表の米8月の雇用統計は予想を下回ったものの、非農業部門就業者数の3ヵ月平均が23.2万人増、失業率が5.0%を下回るようなほぼ完全雇用の状況下に近いとあって、年内利上げを容認できる内容との声が広く聞かれました。
一方で、6日に発表されたISM非製造業景況指数は予想を大きく下回り2010年2月以来の低水準となったことで、今月のFOMCにおける利上げ観測は大きく後退することとなり、ドル円は雇用統計発表後の104円32銭の高値から101円台半ば割れまで反落しました。
出所:米ISM供給管理協会
ISM景況指数は企業経営者のセンチメント指数
職場などで『最近どう?』と尋ねられたときに、『まぁまぁかな・・』『最近少し疲れ気味で・・』といった会話は日常よく聞かれます。それでも2、3日後に同じように問いかけると、『そうだね、だいぶ調子いいよ』と同じ人の返答とは思えない答えが返ってくることもしばしばです。
誰でも穏やかな天候やプライベードの充実感などで気分が大きく左右されるのかもしれません。一方で健康診断では、血圧や尿酸値などデータで示されてしまうと『体調の良し悪し』は明確になります。
ISM景況指数は数百社の購買・供給管理の責任者に対し、受注や生産など10の項目について「改善している」「変わらない」「悪化している」の三者択一のアンケート回答を集計して全米供給管理協会から公表されるものです。いわゆる企業経営者のセンチメントを数値化したものと理解していいでしょう。
これに対し、鉱工業生産や失業率、物価指数、小売売上高、住宅着工などの指標は実体経済をより反映する具体的データだけに、イエレンFRB議長がしばしば言及する、利上げ時期は「データ次第」と述べる際のデータとは後者により重きを置いているはずです。
米8月消費者物価指数は9月16日発表
実体経済を反映するデータという点に注目すると、今週15日に発表される米8月小売売上高や、16日の米8月消費者物価指数は、利上げ時期を巡る市場の思惑を大きく左右しかねないだけに重要な指標と言えるでしょう。
出所:米労働省
FRB高官の意見は直前まで割れている
9月9日にボストン連銀ローゼングレン総裁が「米国経済は比較的良好で賃金にも上昇圧力の緩やかな兆候が見られる」、「早期利上げが適切で利上げを先送りすることはリスクである」などと発言したことから、米10年債利回りは6月24日の英EU離脱決定前の水準となる1.67%台まで上昇しました。市場は9月のFOMCにおける利上げの可能性が増したことからNYダウは今年2番目の下げ幅となる394ドル安まで調整を余儀なくされ、今月にも利上げが実施される可能性が徐々に高まりました。
しかしながら、12日に講演を行ったハト派の代表格であるブレイナードFRB理事は「予防的な金融引き締めシナリオは説得力がない」と述べ、早期利上げに慎重な考えを示したことでNYダウは239ドル高の18,325ドルと高値引けで取引を終えました。
FRB高官の間でも利上げ実施可否をめぐって意見が割れており、FOMCでは激しい議論が交わされることになりそうです。
日銀政策会合でサプライズはあるか!? 総裁、副総裁の発言は?
9月20-21日の日銀政策会合を控える中、9月5日に黒田日銀総裁、8日に中曽副総裁が講演を行い、マイナス金利が金融機関の収益を圧迫していることや、消費者心理などに悪影響を与えていることに言及するなど、市場との対話を重視する姿勢を見せました。
注目されるマイナス金利、量的・質的緩和の総括的な検証を巡っては、「緩和縮小の議論ではない」との見解が示された一方で、中曽副総裁は金融政策の枠組みの修正が必要か判断するとも述べています。
それだけに市場の一部では、現行の80兆円の国債買入れ枠を70兆円から90兆円といった幅を持たせる手法に変更する可能性を指摘する見方も出ています。
こうした中で日銀は短期金利と長期金利のイールドがフラットに近い異常な状況から長短金利の利回り差が広がるような状況を実現させたい意向があるとも言われており、マイナス金利の深堀りとともに、国債買入れ枠の更なる拡大の限界説などの意見もあり、政策会合までの動きに注視する必要がありそうです。