FOMC 今回の利上げとバランスシート縮小の年内開始は急ぎすぎ!?
米消費者物価指数が伸び悩む中での利上げ決定
先週6/15(木)の米FOMCでは、今年2回目の利上げを決定しましたが、その数時間前に発表された米5月消費者物価指数と小売売上高はともに予想を下回りました。
特に、物価変動が激しいエネルギーと食品を除いたコア消費者物価指数が、前年比+1.7%に留まりましたが、イエレンFRB議長は会見で、「一部のインフレ指標の低迷は、一時的な物価鈍化が影響している可能性がある」、「一部のインフレ指標に過剰反応しないことが重要、指標はノイズを伴うことがある」と発言し、インフレ上昇については強気な見通しを強調しています。
米消費者物価指数[コア] (前年比 %)
- ※出所:米労働省
しかし、消費者物価指数(コア)は今年1月の+2.3%をピークに4ヵ月続けて低下しており、市場ではイエレン議長が言及した「ノイズ」ではないのではないか、との受け止め方も少なくないように思われます。
実際、利上げに反対票を投じたミネアポリス連銀カシュカリ総裁は次のように述べ、今回の利上げ決定に疑問を投げかけています。
◇多くのインフレデータがそろうまで利上げを待つべきであった
◇コアインフレの低下が一過性かどうか不明であり、2%の物価目標に近づいているとは思えない
時間給賃金の伸び悩みは雇用環境のパラダイムシフトか!?
今回の利上げ決定は、5月FOMC議事要旨で触れられていた『(金融政策の)引き締めが近く適切になる可能性が大きい』との見解を重視しすぎたようにも感じられます。今回利上げを見送った場合、市場との対話に混乱が生じることを警戒したため利上げを決定したのではないか、との見方も聞こえています。
6/2に発表された5月雇用統計では、失業率が4.3%(4月は4.4%)まで改善が進むなど、FRBが完全雇用と定義している4.7%を4ヵ月連続で下回る一方で、時間給賃金は前年比+2.5%と伸び悩み、FRBの掲げる2%のインフレ目標達成に必要とされる+3.0%〜+3.5%を下回る状況が続いています。
米労働省のデータによれば、ホワイトカラーに分類される就業者数は横ばい、もしくは極めて緩やかな上昇に留まっている一方で、ヒスパニック系や黒人労働者の多くが従事している低賃金・単純労働の雇用は上昇しています。
高度なスキルと比較的低スキルの雇用は良好な一方で、中スキルの雇用は停滞しており、学歴別就業比率を見ても過去に匹敵するほどの改善を示しているのは、高卒未満の層に限られていることが分かります。
単純労働者と、ITの推進によるロボット革命や自動車の自動運転に携わるプログラマーなど高度な知的労働者の雇用が伸びる一方で、単純労働と知的労働の間に位置している職域の雇用が今後も伸び悩むようであれば、FRBが描くインフレターゲットの到達が難しくなるかもしれません。
今回の利上げとバランスシート縮小の年内開始の決定は、来年2月に迫るイエレン議長の任期満了に伴う、後任への職務移行がスムーズに行くように配慮した面もあり、政治的判断から金融政策を急いだとすれば、今後の米国経済や株式市場への影響が予想外に強まる可能性もあり、注意が必要かもしれません。