ECBの債券買入れプログラム縮小の議論は秋から本格化
8/7の立秋を境に「暑中見舞い」が「残暑見舞い」へ挨拶状が変わりますが、こうした季節の変化に対する繊細さは日本独特のきめ細やかな心遣いなのかもしれません。
直接的な言い回しや強い表現による言動は角が立ってしまうだけに、行間を読み聞かせることで、相手への細かい配慮が生まれるのかもしれません。こうした気遣いを気に掛けているのが、常に市場との対話が要求されているイエレンFRB議長であり、黒田日銀総裁、そしてドラギECB総裁なのかもしれません。
日銀とECBは、超緩和的な金融政策を実行していますが、その効果としての低インフレからの脱却に時間がかかっている現状です。しかし、いずれは債券買入れプログラムの撤退や縮小が不可避となります。
いつまでも買入れプログラムを続けるのは困難との市場参加者の見方をいかにして抑え込むのか、両中央銀行には難しい課題が課せられています。
ECBの債券買入れプログラムは、今年12月末まで月額600億ユーロの規模で継続される予定ですが、これを来年1月以降どれだけ縮小させるのかについてECB理事会は、
「秋に議論されるだろう」、さらに「具体的な日付は設定しないことでECB理事会メンバー全員の同意を得ている」ことを明らかにしています。また、「必要に応じて買入れプログラムの範囲内で柔軟に対応できる」とも記されました。
当初、市場は理事会の「必要に応じて買入れプログラムの範囲内で柔軟に対応できる」との声明に、ハト派的ニュアンスを感じ取ったため債券利回りは低下、ユーロ売りの反応になりました。
しかしドラギ総裁が会見で、「インフレ見通しに楽観的な姿勢である」ことが確認されると債券利回りは上昇に転じ、ユーロは2015年8月以来となる1.1658ドルまで上昇しました。さらにユーロは週明けの東京市場で1.1684ドルまで一段高となっています。
ユーロ/米ドル 日足
ユーロ/円 日足
- ※出所:FX総合分析チャート
ECB資産縮小開始の「具体的な日付を設定しない」のはなぜ?
ECB資産縮小を「秋に協議されるだろう」としながらも、「具体的な日付を設定しない」としたのは何故なのか?
疑問を抱いた市場参加者も多かったのではないでしょうか。
前週のECB理事会の決定とドラギ総裁の会見を分析してみると、「今秋」をキーワードにしながらも特定の時期への明言を避けたい事情が垣間見られます。
会見では「今直ぐ」ではなく「秋」というタイミングが【必ずしもベストだと断定できない】不確実さを残したことになります。
ドラギ総裁はインフレについて「目標に達していない」としながらも、見通しや成長見込みについては楽観的な姿勢を示しました。
自信はあるものの具体的な時期を明確に示さなかった背景に、株式市場をはじめとする金融市場の混乱を避ける狙いがあったとすれば、金融市場への配慮だったのかもしれません。
米FRBが進めようとしているバランスシートの縮小についても、過去に経験のない壮大な実験であるとの指摘も聞かれます。「金融市場の動揺に対しては万全を期したい」として、想定外の事態が起こることへの備えは重要です。
「秋」までと期限を区切ったECBですが、1ヵ月後の8/24〜26に米ワイオミング州ジャクソンホールでの金融シンポジウムで、イエレンFRB議長とドラギECB総裁は、「より現実的な対応と具体的な説明」を示すことになりそうです。
金融市場への配慮を優先するのか、それとも当初の目的達成を優先するのか、確固たる自信を得ていないだけに市場の動揺に備える必要がありそうです。