高まる中国の存在感。米中通商交渉の行方は・・・
交渉は平行線を辿ったまま
5/3-4の中国での米中通商交渉には、米国からムニューシン財務長官をはじめ、ライトハイザー通商代表部代表、ロス商務長官らが参加し、習近平国家主席の経済アドバイザーを務めてきた劉鶴副首相との間で交渉が行われたものの、両国間の隔たりの大きさが印象に残るだけの成果の得られない結果となりました。
米国側は、
①2020年までの貿易赤字を2000億ドル削減(米国側の草案には2018/6/1からの1年間に1000億ドルの対米黒字の削減、さらに2019/6/1からの1年間にさらに1000億ドルの削減と明記)
②米国を上回る関税率の製品をなくすこと
などを求めました。
これに対し、中国側は、
①ハイテク製品の対中輸出制限の緩和。(1989年6月の人民軍が民主化運動を武力により制圧した天安門事件を理由に、米国は未だに中国へのハイテク製品の輸出を制限) この制限の緩和によって、米国から中国へのハイテク製品輸出が増加すれば、対米貿易黒字は減少するというのが中国側の主張
②WTO(世界貿易機関)協定上の『市場経済国』の認定
などを求めましたが、交渉は平行線を辿ったまま終えています。
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット
米朝首脳会談を控え、中国が存在感示す
今週中にも、中国の劉鶴副首相らがワシントンを訪問、2回目の米中通商交渉に臨みます。
こうした中で、先週5/7-8は中国・大連で3月に続く2度目の中朝首脳会談を行うなど、6/12にシンガポールで行われる史上初の米朝首脳会談を控え、北朝鮮の後ろ盾として中国の存在があることが強調されました。
「韓国は勿論、中国側の協力がなければ米朝首脳会談の成功もあり得ない」と言わんばかりに、中朝首脳会談後に習近平国家主席は、トランプ大統領との電話会談の中でも米中貿易問題にも触れ、通商交渉での妥協点を探る努力が続いているようです。
そもそも、今年1月に米国が中国製太陽光パネルや洗濯機などへの緊急輸入制限を発動し、3月には通商法201条に基づき約1300品目の中国製品に25%の関税を課すことを発表。さらに鉄鋼やアルミへの追加関税を発表するなど、11月の中間選挙に向けた実績づくりが発端だったように思われます。
しかし、北朝鮮の核廃棄に向けた動きが実現に向かうことになれば、トランプ大統領の実績として、中間選挙に向けた追い風になることは間違いないだけに、過度な制裁措置による米国の産業界への影響や、米国経済への悪影響に配慮する必要があるのも事実です。
米ドル/円 日足チャート
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット
ドル円は5/2に110円04銭まで上昇後、5/4に発表された米雇用統計で時間給賃金の伸び悩みを確認したことで、FOMCでの利上げを急がないとの声明を裏付ける格好となり、108円65銭まで下落しました。
その後、5/10には本邦大手薬品メーカーによるアイルランドの製薬大手を巡る買収に絡む円売り観測のほか、米長期金利の上昇を背景に、110円02銭まで上昇しました。
しかし、5/9の米卸売物価指数に続き、消費者物価指数も予想を下回ったことから、過度なインフレ進行への懸念が後退し、ドル円は109円30銭まで反落しました。
消費者物価指数の内訳を見ると、中古車およびトラック価格が1.6%下落し、2009年3月以来の大幅なマイナスとなったほか、航空運賃も2.7%下落。さらに、民間企業の平均時給(インフレ調整済み)は前月比横ばい、前年同月比+0.2%の上昇に留まるなど、雇用統計での時間給賃金の伸び悩みを裏付ける結果となりました。
消費者物価指数の結果を受けて、FRBの年4回の利上げ見通しが前日の50%から45%へ低下する中、米10年債利回りは2.98%台から2.94%台へ低下しました。
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット
注目は米長期金利の動向や、地政学リスクの行方
今週は、5/15に米4月小売売上高が発表されるほか、5/16に小売大手メイシーズ、5/17にウォルマートやJCペニーなどの2-4月期決算が予定されています。
個人消費の行方が注目されますが、先週トランプ大統領がイラン核合意からの離脱を表明したこともあり、原油価格の上昇が続いています。原油、アルミ、鉄鋼など原材料価格の上昇が消費財価格上昇にどの程度影響を及ぼしているのでしょうか。
仮に消費関連指標が予想を下回った場合でも、インフレ懸念が後退すると判断するのは時期尚早であり、引き続き米長期金利の動向次第ではドル円が再度110円台を回復する可能性もあるだけに、米中通商交渉や地政学リスクの行方と合わせて注目していく必要があります。