米5月雇用統計 結果を確認!
総じて堅調な結果
先週末発表の米5月雇用統計は、非農業部門就業者数が22.3万人増と予想(19.0万人)を上回ったほか、失業率も前月比横ばいの3.9%の予想に対し、2000年4月以来の3.8%へ改善しました。
労働参加率が前月の62.8%から62.7%へ低下したほか、大卒と高卒未満の失業率格差が過去最低に縮小するなど、企業が労働力確保に積極的に動いていることが明らかとなりました。
労働力人口と失業者数の数値から算出した失業率は3.75%となり、2000年4月の3.84%を下回り、1969年12月の3.53%以来の低水準となりました。
さらに、平均時給は前月比+0.2%の予想に対し+0.3%、前年比でも+2.7%へ上昇するなど、総じて堅調な内容となりました。
その後発表された米ISM製造業景況指数も予想を上回り、10年債利回りは一時2.92%へ上昇しました。
12月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | |
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非農業部門 雇用者数(万人) | 17.5 | 17.6 | 32.4 | 13.5 | 15.9 | 22.3 |
失業率(%) | 4.1 | 4.1 | 4.1 | 4.1 | 3.9 | 3.8 |
時間給賃金 前月比(%) | 0.4 | 0.3 | 0.2 | 0.2 | 0.1 | 0.3 |
時間給賃金 前年比(%) | 2.7 | 2.8 | 2.6 | 2.6 | 2.6 | 2.7 |
※出所:SBIリクイディティ・マーケット
伸び悩む時間給賃金に上昇の兆し
米10年債利回りが3.0%を上回り、一時3.12%まで上昇した5/21-22には、ドル円は111円台へ円安が進み、FRBの年4回利上げ確率は50%を上回っていました。
しかし、イタリアやスペインの政局を巡る先行き不透明感の高まりを背景に、安全資産とされる米債や独債へ資金が向かい、イタリア国債が大きく売られる局面ではNYダウが500ドル以上も下落、米10年債利回りは2.7%台へと低下しました。
こうした局面では、年4回の利上げ確率も10%強まで低下、市場では3月と合わせ6月と9月の年3回が有力とされました。
今年1月の時間給賃金(前月比+0.3%、前年比+2.8%)の上昇は一過性に終わり、2月以降3ヵ月連続で伸び悩む状況が続いていました。
今回の雇用統計で、時間給賃金は前月比+0.3%、前年比+2.7%と賃金上昇の兆しが見られます。失業率の低下に伴い、低学歴層の賃金上昇ペースに加速傾向が見られるなど、低失業率が賃金上昇に結びついていくのか、来月以降の動向がFRBの年4回の利上げ確率を高めることにつながるだけに注目されます。
非農業部門雇用者数(万人)の推移
- ※出所:米労働省
米時間給賃金 前月比(%) 、前年比(%)
- ※出所:米労働省
今後の注目点と想定されるリスクは?
FRBが物価の目安としている個人消費支出コアデフレーターについては、前年の携帯電話サービス料金などの大幅値下げに伴うベース効果によるもので、FRBはすでに3月FOMC議事要旨でこうした動きを予想、「利上げペースの見通しを変える理由にはならない」と言明していました。
それでも、雇用統計発表前日の5/31に発表される4月の個人消費支出コアデフレーターは、+1.8%と前月からやや減速される見通しとなっており、こちらと合わせインフレ指標の一つとされる雇用統計の時間給賃金(前年比)があらためて注目されそうです。
今回の結果を受けて米長期債利回りの上昇につながり、米10年債利回りが節目とされる3.0%を再度上回るきっかけとなるか、NY株式市場の反応と合わせて注目されます。
先週末の米5月雇用統計の一方、イタリアでは連立政権が発足、財務相に就任したトリア氏は『五つ星と同盟はユーロからの離脱を目指す政党ではない』と発言。さらにスペイン・ラホイ首相に対する不信任決議案が可決されましが、新首相への期待からユーロは先週5/29の1.1510ドルで一旦の下値を確認、ユーロ円も先週前半の124円62銭から128円台を回復するなど、リスク回避志向の動きが沈静化しています。
一方、トランプ政権は、EU、カナダ、メキシコに対する鉄鋼・アルミの輸入制限を発動、さらに輸入自動車に対する関税強化を打ち出すなど、保護貿易主義を一段と強化しようとしています。
これに対し、先週末カナダで行われたG7財務相・中央銀行総裁会議でもこの問題が取り上げられ、各国から米国に対する強い批判が高まっています。米国のこうした通商政策が世界経済の成長にとってネガティブな影響を及ぼすことは間違いないと、警戒感を露わにするなど、米国への報復措置に動き出しており、今週6/8からのG7サミットでも中心議題として話合いの焦点となりそうです。
しかし、地政学リスクや貿易問題など政治的な懸念が経済指標の下振れとして表面化するまでは、FRBの金融政策を巡る議論にはつながりにくいとされます。
今後の時間給賃金や個人消費支出などの上昇によって、インフレ期待が高まる局面で通商問題がより対立を深め、世界貿易の縮小・停滞に至った場合、株式・債券市場に悪影響を及ぼしかねないだけに注意して見ていく必要がありそうです。
◇今後想定されるリスク:
- 米通商政策による各国との対立が深まる場合の世界貿易の縮小・停滞への懸念
- 米朝首脳会談で非核化プロセスで溝が深まり、実質的な議論が棚上げとなるリスク
- 対イラン制裁強化に対するイランや北朝鮮の動き次第では地政学リスクが再燃?
- イタリア連立政権、大型減税やインフラ整備へ動くなど財政健全化問題、EUと対立?
- 米国のインフレ期待から長期金利が上昇の場合、新興国市場からのドル資金流出?
◇注目点:
- 米経済でインフレ加速の兆候は? 年4回利上げ観測が高まるか、NY株式市場に注目
- G7サミットでの米通商政策を巡る米国と各国との溝が埋まるのか、貿易戦争への懸念
- 制裁強化に対するイランや米朝会談後の北朝鮮の対応など地政学リスクの行方
- 米国の輸入自動車への関税強化か?日本株への影響と海外投資家のスタンスは?
- 財政健全化に後ろ向きなイタリア新政権、ユーロは反発基調か、再度の下押しか?