短期間に30%超の大幅安
8/13の東京市場では先週後半以降続く、トルコリラ安に歯止めがかからず、南アランドやインドネシアルピアなど新興国通貨の下落に拍車がかかる状況となっています。
これまで、高金利通貨として人気のあったトルコリラや南アランドに対し、『悪い金利上昇』の色彩が強まっています。
中でも、トルコリラはエルドアン大統領が大統領選で再選を果たし、長い間続いた議院内閣制から大統領制へ移行、大統領権限を強化したことから、政治情勢や中央銀行の独立性が疑問視され、リラ安が進行、さらに米国との対立が強まったことで7月以降、10日余りの短期間にトルコ円は30%超の大幅安となっています。
※出所:SBIリクイディティ・マーケット
直近1ヵ月のトルコを巡る主な出来事
7月9日 |
エルドアン大統領就任、前副首相兼経済担当相シェムシェキ氏を解任し、娘婿を財務相に任命、議院内閣制から大統領制へ移行しエルドアン大統領はトルコ中銀総裁・副総裁の任命権限を獲得 |
13日 |
格付け機関フィッチがトルコを「BB+」⇒「BB」へ格下げ |
24日 |
トルコ中銀政策委員会、政策金利の据え置きを決定 (市場は利上げ予想) |
31日 |
トルコ中銀がインフレ目標を引上げ(2018年:8.4%⇒13.4%、2019年:6.5%⇒9.3%) |
8月9日 |
ワシントンでトルコと米国の閣僚が協議 |
10日 |
米国人牧師の即時釈放要求をトルコが拒否、トランプ大統領は鉄鋼・アルミへの関税引上げ(トルコからの鉄鋼輸入に50%、アルミに25%) |
11日 |
エルドアン大統領は、米政府が対立関係を煽っているとして厳しく非難、NATO加盟国同士である両国の数十年に及ぶ協力関係を壊す恐れがあると指摘 |
対立が激化すれば反発のきっかけを失う!?
米FRBは、直近のFOMCや複数の地区連銀総裁らの発言を受け、年内あと2回の利上げ可能性が高まっています。
FRBの金融政策は、正常化から利上げモードへと切り替わりつつあり、新興国市場からの資金流出懸念の動きが強まっています。欧米のヘッジファンドなど投機筋は、新興国の通貨や債券売りを加速させるような狙い撃ちを仕掛けているとの観測も聞かれます。
もともと、米オバマ前政権下でトルコはシリア政策を巡り、米国と度々対立するなど関係が冷え込んでいました。
トランプ大統領は就任当時、シリア内のクルド人勢力に武器を供与する計画を承認、これに対抗しトルコ国内で軍事作戦を開始し、米国が主導する過激派「イスラム国IS」掃討の取り組みを妨害するなど、トルコから強い反発を招いていました。
その後、米国とトルコは何とか矛を収め、緊張緩和に向けて、シリア内で係争地の警備に共同で当たるなど、トランプ大統領はトルコのエルドアン大統領との関係改善を図ってきました。実際、7月のNATO(北大西洋条約機構)首脳会議の席では、公然とエルドアン大統領を持ち上げる発言を行っていました。
しかし、トルコに自宅軟禁されている米国人牧師の釈放を巡り米国とトルコとの対立がより深刻な問題に発展すれば、トルコ安は反発のきっかけを失うことになりかねません。
さらに、NATO加盟国で2番目の軍事力を誇るトルコ軍がロシアや中国に接近することになれば、中東シリアを巡る米国とロシアとの対立が懸念される事態になりかねません。
今後の懸念点は!?
@トルコリラ安がインフレ圧力を高め金利上昇に拍車を掛け、一段の通貨安を招く悪循環に陥る可能性が懸念されます。トルコ中銀の政策委員会は次回9月まで予定されておらず、仮に臨時会合が開催された場合でも、大統領権限を強めたエルドアン大統領が金利引上げを抑制するようトルコ中銀に圧力をかける可能性が懸念されます。トルコ中銀が、思うように金融政策を制御できなくなる恐れもあり、リラの一段安には警戒が必要です。さらに、Moody`sの格下げなどの可能性にも要注意。
Aトルコがシリア内のクルド人勢力を標的にすれば、連携する米軍を危険にさらす恐れがあり、問題を悪化させかねないだけに要注意。
Bトルコ南部のインジルリク空軍基地は、米軍やNATO 加盟国によるISへの空爆など、掃討作戦での要所となった基地であり、トルコの国家主義者からは、米国を同基地から排除し、利用合意を終わらせるようエルドアン大統領に圧力をかけており、米軍締め出しという事態に発展するか、トルコにとって米国との交渉で大きな取引材料となるだけに注目。
Cトルコ国内大手のハルク銀行に勤務していたアッティラ受刑者は、米国の対イラン制裁法に違反した罪で米国で32カ月の禁錮刑に服役中だが、米国とトルコによるハルク銀行に対する多額の制裁金を巡る交渉は、現在も暗礁に乗り上げており、米国のイラン制裁に絡む動き次第では、トルコとの対立が深まる可能性もあり要注意。
D米国が新たに課した鉄鋼やアルミの関税引上げですが、米国のトルコからの鉄鋼輸入は全体の5.7%(日本:5.0%)、アルミの輸入はかなり少ないとされ、一部には軍事的関係に配慮して緩やかな制裁に据え置いたとの観測も聞かれます。今後、米国が一段と制裁強化を図るか要注意。
アルゼンチンは、ペソの急落を契機に政策金利を40%まで引き上げたものの、事態の好転につながっていないのが現状です。トルコが現状をどのように打開するのか、成果が得られる手立てが見えないだけに、悪循環が続くことへの警戒を強める必要があるかもしれません。