賃金上昇が本格化するか?
9/7発表の米8月雇用統計は、就業者数が20.1万人増と予想を上回ったものの、7月、6月と直近過去2ヵ月の就業者数は、合計で5.0万人の下方修正がされました。
しかし、最大のサプライズは、平均時給が前年同月比2.9%増となり、7月の2.7%増から加速、2009年6月以来の大きな上昇率を達成したことです。
企業経営者が賃金など労働条件を改善しなければ、優秀な人材確保や維持が難しい状況に直面したことを示す結果となった可能性があり、こうした動きが今後の雇用統計でも確認されるのか注目されます。
実際、報酬や福利厚生などを含めた所得の実態を反映するとされる4-6月期雇用コスト指数は、前年同期比+2.8%と2008年半ば以来の大幅な上昇となりました。企業が福利厚生や報酬面で優遇するなど、他社との差別化を進め、労働条件の改善を示していた結果が時間給賃金にも表れたものかもしれません。
3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | |
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非農業部門 雇用者数(万人) | 15.5 | 17.5 | 26.8 | 20.8 | 14.7 | 20.1 |
失業率(%) | 4.1 | 3.9 | 3.8 | 4.0 | 3.9 | 3.9 |
時間給賃金 前月比(%) | 0.2 | 0.1 | 0.3 | 0.1 | 0.3 | 0.4 |
時間給賃金 前年比(%) | 2.6 | 2.6 | 2.7 | 2.7 | 2.7 | 2.9 |
※出所:SBIリクイディティ・マーケット
米時間給賃金 前月比(%) 、 前年比(%)

※出所:米労働省
エコノミストの見方が修正される可能性も
時間給賃金(前年比)は、7月まで3ヵ月連続で+2.7%増と緩やかなペースでの上昇を継続していたものの、8月に2.9%まで上昇したことで、企業の利益率圧迫や、FRBによる想定以上の利上げペースを招く「賃上げ本番」につながるか注目されます。
これまで、長らく労働市場に明確なスラック(需給の緩み)の兆しはほとんど見られていませんでした。失業率は数十年ぶりの水準まで改善が進む一方、求人数は失業者を上回る水準に到達するなど、企業経営者から人材の確保が難しいとの声が漏れていました。
これまで、賃金上昇率の伸びは緩やかな状況が続いていたことから、エコノミストの間では、「依然として未活用の隠れた労働力が存在し、拡大する雇用主の人材需要を満たしている」との認識が一般的となっていました。
しかし、今回の時間給賃金の上昇によって、こうした見方を修正せざるを得ない状況が生まれた可能性があります。
さらに、8月の労働参加率が62.9%から62.7%に低下したということは、賃上げペースが加速しているにもかかわらず、労働人口が減少していることを示唆しています。
すなわち、企業が労働市場を去った人々を呼び戻す、またはライバル社から人材を引き抜きたい場合には、給与を引き上げざるを得ないということになります。
さらに、米4-6月期GDP改訂値では、成長率が速報値の前期比+4.1%から+4.2%へ上方修正されました。中でも、企業の設備投資が速報値(前期比+7.3%)から+8.5%へ上方修正されており、企業は今後さらに雇用を増やす必要があると思われます。
過去数年にわたる設備投資低迷が招いた生産性の伸び悩みを踏まえると、需要に追いつくにはおそらく増員で対応するしかありません。
米国が減税や財政支出などを追い風に力強い成長を続けるとすれば、今後も好調な労働市場が続くと予想される中で、賃金上昇が本格化するかもしれません。
非農業部門雇用者数(万人)の推移

※出所:米労働省
FRBの利上げペース加速か?
パウエルFRB議長は、8月のジャクソンホールでの講演で、「米国経済は強く、段階的な利上げが必要」との考えを示した一方、「米国経済が過熱している兆候は見られない」との認識を示していました。
しかし、米8月雇用統計で時間給賃金が上昇していることが確認されたことに続き、9/13に発表される米8月消費者物価指数(コア前年比)が 予想通り+2.4%となれば、FRBの掲げる物価目標(+2.0%)を今年3月以来6ヵ月連続で上回ることとなり、米10年債利回りが再び3.0%台を回復する可能性もあります。
FRBの利上げペースが加速するのか、今後発表される米インフレ指標と米債券市場の動向が注目されます。