新型の糖尿病治療薬である「GLP-1受容体作動薬」が肥満にも効くことが明らかとなり、肥満治療薬に株式市場の注目が高まっています。肥満治療薬の市場は2030年に1,000億ドルに拡大するとの一部アナリストの予想も出て、同市場を2分すると期待されるイーライリリィとノボノルディスクが注目されます。
図表1 注目銘柄
銘柄 | 株価(10/3) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
イーライ リリィ(LLY) | 525.19ドル | 601.84ドル | 309.20ドル |
ノボノルディスク ADR(NVO) | 87.78ドル | 100.88ドル | 50.45ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回は株式市場の注目が高まっている肥満治療薬市場に関してアップデートいたします。
肥満治療薬市場に関しては、2022年12月14日付「需要“爆発”前夜!?肥満治療薬市場」、2023年5月31日付「糖尿病治療薬、肥満治療薬、アルツハイマー病治療薬で成長期待のイーライリリィ」と外国株式特集レポートで取り上げてきました。
関連銘柄のイーライリリィとノボノルディスクは、昨年来大幅な株価上昇となっています(図表2)。ここ3週間は米10年国債利回りの上昇を受けて、高いPERが裏目に出て株価は調整していますが、米長期金利の落ち着きとともに株価は上昇基調に戻ると期待されます。
〇肥満治療薬の基本的なストーリー
肥満治療薬というと、過去数十年の様々な経緯から、安全なのか、本当に効くのかと疑問をもつ方もいらっしゃると思いますが、今回のものは本当に効くようです。現在様々な会社で開発が進んでいるのは、糖尿病の治療に利用されている「GLP-1」というホルモンの作用を応用するもので、これを肥満治療に転用します。適切に管理すれば、安全に効果が高い体重管理ができると言われています。
GLP-1は小腸から分泌される消化管ホルモンです。人が食事をして、食物が小腸に届くと、その刺激で分泌されます。GLP-1が膵臓にある受容体と結合してインスリン分泌を促し、血糖値を下げるという仕組みになっています。ただ、GLP-1は体内では直ぐに分解されてしまいます。
GLP-1の働きが持続するように工夫したものが「GLP-1受容体作動薬」で、これまで糖尿病薬として使われてきました。しかし、脳内の中枢神経に直接作用して食欲を抑える働きがあることが知られるようになり、これを利用して肥満治療薬としても使われ始めています。
〇ノボノルディスクのリリースが株価を刺激
8月8日にノボノルディスクが同社の糖尿病治療薬(商品名は「オゼンピック」(注射薬)、「リベルサス」(経口薬))および肥満治療薬(商品名は「ウゴービ」)と同じ成分であるセマグルチドの臨床試験で、心血管疾病のリスクを20%減らすことができたとの結果を発表しました。
同試験では45歳以上で肥満かつ心血管疾病で糖尿病歴のない人が選ばれて、肥満に効果があることが分かっている同薬を処方することで、心血管疾病にも効果があることを証明することが目的です。
肥満治療薬の市場は非常に大きくなる可能性がありますが、市場がどれくらい大きくなるかは保険適用の範囲がどうなるかにかかっています。
このためノボ ノルディスクやイーライリリィは、肥満を解消することで、肥満が原因でかかるとされる疾病(心臓病、脳卒中、肝臓病、高血圧など)を減らすことができることを証明するための臨床試験を進めていますが、今回はその方向で非常に良い結果が出たと言えるでしょう。このために株価は大幅上昇で反応したと考えられます。
〇JPモルガンアナリストは1,000億ドル市場と予想
2022年11月21日に掲載されたファイナンシャル・タイムズ紙の記事で、2021年に15億ドルと推定される肥満治療薬の市場について、モルガンスタンレーのアナリストは2030年に500億ドルへ拡大すると予想して、そんなに大きくなるのかと市場を驚かせました。この記事を見て筆者もレポートを書かなければと思い、前述のレポートを書いたというわけです。
ところが今年9月初めに、JPモルガンチェースのアナリストが2030年に1,000億ドル市場になるとの予想を出しました。一部のアナリストの意見とは言え、モルガンスタンレーの500億ドルの市場予想が出てから1年以内に市場予想が倍になるという驚くべき展開となっています。
イーライリリィの4-6月期決算、ノボノルディスクの1-6月期決算とも、糖尿病治療薬や肥満治療薬の売上拡大が順調であることに加え、ノボノルディスクの上記リリースによって、将来的に保険適用の範囲が広がる可能性が高まったことが考慮されたとみられます。
〇肥満治療薬の市場を2分すると予想されるイーライリリィとノボノルディクス
非常に大きくなる可能性のある肥満治療薬の市場ですが、イーライリリィとノボノルディスクが市場を2分するとみられています。2030年に1,000億ドルの市場予想を出したJPモルガンチェースのアナリストも、両社が500億ドルずつの市場を取ると予想しています。
これには両社が糖尿病治療のためのインシュリン製造で創業した会社であり、いまでも糖尿病治療薬が主力分野となっているという、歴史的な経緯が関係しています。
アムジェン(AMGN)、ファイザー(PFE)、新興バイオ企業のアルティミュン(ALT)なども参入に向けて新薬の開発を進めていますが、イーライリリィとノボノルディスクが大きく先行しているために上記のような予想となっています。
2節でイーライリリィ、3節でノボノルディスクの会社・事業概要と業績動向をご報告いたします。
図表2 イーライリリィとノボノルディスクの株価
注:最後のデータは10/3(火)です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
イーライ リリィ(LLY) | 時価総額: 5,110億ドル | ||||
---|---|---|---|---|---|
決算期 | 売上高(億ドル) (前年比) | 純利益(億ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
22.12 | 285 | 1% | 68 | -3% | 7.57 |
23.12予 | 335 | 17% | 88 | 28% | 9.68 |
24.12予 | 390 | 16% | 115 | 31% | 12.59 |
25.12予 | 462 | 19% | 153 | 33% | 17.09 |
株価(10/2): 538.29ドル | 予想PER(23.12期): 55.6倍 |
〇会社・事業概要
1876年創業の米国の医薬品大手です。インスリンの大量生産を初めて実現したことで有名で、ノボノルディスク同様に糖尿病と関係の深い会社です。糖尿病、がん、免疫が主力分野です。売上の25%を研究開発に投入する、研究開発重視の会社です。
現在、肥満治療薬ではノボノルディスクに先行されていますが、同社が開発中の肥満治療薬「チルゼパチド」(一般名)の臨床試験での体重減少は21%と(2022年4月発表)、「ウェゴビー」の臨床試験での同15%を上回っていることから、有望と考えられています。
「チルゼパチド」は2022年10月にFDAの優先審査の承認を受けており、2023年にも承認される可能性があります。また、同社は肥満治療薬だけでなく、第3相臨床試験以上の開発薬が30種類と、新薬候補が非常に充実していることから、大手医薬品メーカーの中では成長性が高い企業と目されています。
〇業績動向
2022年12月期は、全般的な販売価格の下落やがん治療薬(「アリムタ」)の特許切れの影響で業績は伸び悩みましたが、GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」投入の効果が出て2023年12月期からは業績は高い伸びに転じる見通しです。
4-6月期決算は、売上が前年同期比28%増、調整後EPSは同38%増で、売上・EPSとも市場予想を上回りました。大幅な売上増には、薬の権利売却による約9%ポイントの寄与を含みます。主力の「トルリシティ」が同5%減で市場予想を下回った一方、新型の糖尿病治療薬「マンジャロ」が9.8億ドル1-3月期の5.7億ドルから9.8億ドルへ順調に増加したほか、前年同期比57%増となった乳がん治療薬の「ベージニオ」などがけん引しました。通期の調整後EPSガイダンスを9.70〜9.90ドルへ1.05ドル引き上げました。
図表3 イーライリリィの主な糖尿病治療薬と肥満治療薬の売上(億ドル)
※BloombergデータによりSBI証券が作成
ノボノルディスク ADR(NVO) | 時価総額: 4,140億ドル | ||||
---|---|---|---|---|---|
決算期 | 売上高(億ドル) (前年比) | 純利益(億ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
22.12 | 251 | 12% | 80 | 4% | 1.75 |
23.12予 | 319 | 27% | 113 | 42% | 2.51 |
24.12予 | 378 | 19% | 132 | 17% | 3.02 |
25.12予 | 435 | 15% | 153 | 16% | 3.57 |
株価(10/2): 91.80ドル | 予想PER(23.12期): 36.6倍 |
注:デンマーククローネ建ての業績を米ドルに換算して表示しています。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
〇会社・事業概要
デンマークの医薬品大手で、米国市場にはADRで上場しています。1989年にインシュリンメーカー2社の合併で形成されました。糖尿病治療薬が主力で、他に肥満治療、希少疾患も手掛けています。
新しいタイプの糖尿病治療薬である「GLP-1受容体作動薬」(オゼンピックやリベルサスなど)が2023年1-6月期には売上の51%を占めるに至り、かつ、前年同期比49%も伸びています。肥満治療薬では、体重管理を適応とした「ウェゴビー」が2021年6月にFDA(米食品医薬品局)から承認され、肥満治療薬で先行しています。
「ウェゴビー」は2021年に米国で発売したところ需要が強すぎて生産が間に合わず、積極的なマーケティング活動を中止していました。昨年生産体制を整えたことから、足もとで売上が急拡大しています。
〇業績動向
1-6月期の決算は売上が前年同期比29%増、営業利益が同30%増と好調です。糖尿病および肥満治療薬が同36%増で、うちGLP-1受動体作動薬と呼ばれる新型の糖尿病治療薬が同49%増、肥満治療薬が同158%増と伸びをけん引しています。地域別には肥満治療薬が伸びている北米が同45%増とけん引しています。通期の売上は前年比27〜33%増を見込みます。
図表4 ノボノルディスクの主な糖尿病治療薬と肥満治療薬の売上(億ドル)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
免責事項・注意事項
- 本資料は投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたもので、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。万一、本資料に基づいてお客さまが損害を被ったとしても当社及び情報発信元は一切その責任を負うものではありません。本資料は著作権によって保護されており、無断で転用、複製又は販売等を行うことは固く禁じます。
- レバレッジ型・インバース型 ETF等(ETN含む)は、主に短期売買により利益を得ることを目的とした商品です。レバレッジ指標の上昇率・下落率は、2営業日以上の期間の場合、同期間の原指数の上昇率・下落率のレバレッジ倍(又はマイナスのレバレッジ倍)とは通常一致せず、それが長期にわたり継続することにより、期待した投資成果が得られないおそれがあります。上記の理由から、一般的に長期間の投資には向かず、比較的短期間の市況の値動きを捉えるための投資に向いている金融商品といえます。投資経験があまりない個人投資家の方が資産形成のためにこうしたETF等を投資対象とする際には、取引の仕組みや内容を十分理解し、取引に伴うリスク・コストを十分に認識することが重要です。レバレッジ型・インバース型 ETF等に係る商品の特性とリスクについてはこちらのリーフレットをあわせてご確認ください。