英国議会での過半数確保は厳しい状況
11/25に、EUは臨時の首脳会議を開催し、英国のEU離脱案を正式に承認しました。首脳会議では、離脱後の英国とEUとの通商関係の在り方、政治や経済関係の大枠を定めた『政治宣言』が承認されました。これで、来年3/29の英国・EU離脱に向けて最終関門となる英国議会での採決に焦点が移行することになります。
採決は来年1/21までに実施されなければいけないという期限が定められていますが、来年に採決を持ち越すことは避けるとの見通しも聞かれています。
※出所:SBIリクイディティ・マーケット
英議会下院の議員数は650名、この内投票に参加しない正副議長が4票、さらに登院しないシンフェイン党の7名を除くと650票-(4票 + 7票) = 639票 となることから過半数は320票が必要となります。
しかし、与党・保守党内の中にも、EUやメイ政権に批判的な反対勢力が70名〜最大80名ほどおり、EU離脱協定案に反対票を投じる可能性があるとされています。
また、閣外協力でメイ政権を支えている北アイルランドの地域政党である民主統一党は、北アイルランドだけにEU規制が適用される点に反発し、反対票を投じる意向と示しているだけに、現状320名の過半数を確保するのは相当厳しい状況にあると言えます。
※出所:SBIリクイディティ・マーケット
ポンドは下落・上昇どちらに進むか
英議会でEU離脱協定案が否決された場合、移行期間なしの「合意無き離脱」の可能性が高まり、英国とEU間の経済や通商に多大な影響が及ぶことになりそうです。こうした結果となれば、英国の政治にも影響が及ぶことは必至で、
(1) メイ首相の辞任の可能性
(2) 英国からEUへ離脱期日(2019/3/29)の延期申請(⇒EUは拒否する可能性も)
(3) 英議会総選挙
(4) 英国のEU離脱の是非を問う国民投票の再実施の可能性
など幾つかのシナリオが想定されます。
メイ首相は、EU離脱協定案の英議会下院での可決に向けて、
(1) 与党保守党内の反対勢力や、民主統一党議員の賛成票への説得工作
(2) 与党保守党内の反対勢力や、民主統一党議員の投票棄権説得
(3) 労働党を中心とした野党議員の賛成票への投票支援
などの施策が考えられます。しかし、現状は厳しい状況にあるだけに、11/25のEU臨時首脳会議での承認に対して、ポンド買いの反応は殆ど見られていません。
仮に「合意無き離脱」となれば、英メイ政権の辞任のほか、総選挙や再度の英EU離脱の是非を問う国民投票などの可能性も否定できないことから、ポンドは来年末に向けて昨年4月の1.2366ドル、昨年3月の1.2109ドル、さらには昨年1月の1.1987ドル、すなわち1.20ドル割れの可能性が懸念されます。
一方で、2020年末までの移行期間を持ちながら秩序ある離脱が進み、英国やEUの経済にネガティブな影響がなく、英国の政治も安定的な動きとなれば、ポンドは来年末に向けて上昇基調に転じる可能性もあるだけに、動向が注目されます。