米中の貿易を巡る制裁関税の動き
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット
米中通商交渉はトランプ大統領の粘り勝ち?
2/24まで延長して協議された米中通商交渉にて、3/1の米国による追加制裁関税引き上げ期限を延長することが正式に決定しました。
米中通商交渉を巡っては、そもそも民主主義の米国と、共産主義国家の下で産業育成を進める中国と、社会構造に根本的な違いがあります。
トランプ政権が昨年から断続的に米中貿易問題の是正に向けて対中制裁関税の引き上げなど強硬措置を講じて圧力をかけ続け、一定の成果が得られる結果となりました。中国による米国からの農産物やエネルギー製品の最大1.2兆ドル相当の購入提案を勝ち取り、意図的な対ドルでの人民元安への誘導是正など、為替問題について決着を見たことは、トランプ大統領の粘り勝ちと言えるかもしれません。
さらに、3/5の全人代開幕を前に一応の決着を見たことは、習近平国家主席の面子を保つことにつながったといえます。また、昨年12月下旬の全人代常務委員会で、中国企業の技術移転強要や外資系企業の事業に対する政府の介入を禁じた「外商投資法案」についても審議されていたことから、今回の全人代では米国に配慮する形で法的整備を進めるとの観測が聞かれるなど、中国側の本気度が伺われる結果となりました。
しかし、共産主義国家である中国にとって、米国が問題として掲げる中国政府による国営企業への補助金の提供や規制面での優遇など、非関税障壁については譲れない一線となっている一方、海賊品対策の強化など知的財産権については、米国側に一定の譲歩を示したものと思われます。
週明けのシドニー市場から東京市場の朝方にかけて、3/1の追加制裁関税引き上げ期限の延長が確認されたものの、ドル円は110円86銭までの上昇に留まり、2/22の高値110円90銭にも達していません。今回の制裁関税期限の延長は、ある程度織り込まれており、想定の範囲内といった反応となっています。
しかし、米国は最後まで決められた事項について中国側が合意事項について遵守するのか、一定の監視・検証が必要とした上で、違反した場合の罰則規定にも言及したと思われます。
しかし、中国側は慎重姿勢を崩さず、今回の決定事項について中国側が履行するのか、今後米国が反発する局面がないと保証できるのかといった点が次の焦点となりそうです。
リスク選好の動きが加速か
今回の米中通商交渉の決定を受けた週明けNYダウ先物は93ドル高へ上昇するなど、一定の評価をする動きも見られるものの、ドル円の上昇の鈍さが気掛かりな状況です。
今回の決定や今週のパウエルFRB議長の上下両院での議会証言、2/27に予定されているライトハイザー米通商代表部代表による議会公聴会での米中通商交渉に関する証言や、米朝首脳会談での非核化や朝鮮戦争終結宣言に向けた進展次第では、NYダウは昨年10/3のザラ場での史上最高値(26,951ドル)を上抜ける可能性もあり、リスク選好の動きが加速するか注目されます。
経済指標悪化の悪夢は繰り返される?
2/14に発表された政府系機関閉鎖の影響で遅れていた12月米小売売上高が、およそ9年ぶりの大幅な低下となったほか、2/21発表の米2月フィラデルフィア連銀製造業景況指数も前月(17.0)から大幅な低下となる-4.1と、2016年5月以来2年半ぶりのマイナスに低下するなど、米国経済の景気減速懸念が見られました。
2/14のドル円は、小売売上高の悪化を背景に111円13銭から110円46銭へ反落、また2/21には、110円56銭へ反落するなど、ドル円上昇の足かせとなっています。
2/28には、米10-12月期GDP速報値が発表されます。
2/14に発表された米12月小売売上高が予想を大きく下回ったことから、米GDPのおよそ7割を占める個人消費が冴えないとして、今回のGDP速報値が市場予想(前期比+2.6%)を下回る可能性も懸念されます。
2/14、2/21と2週連続で予想以上に悪化が続いた米経済指標の悪夢が今週も続き、ドル円の上昇にブレーキを掛けることになるのか、悪夢を払拭して2/14の米小売売上高発表前に付けた111円13銭を上抜けて行くのか注目されます。
米GDP 前期比(%)
- ※出所:US Bureau of Economic Analysis