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防衛資産としての性質を増す金
提供元:森田アソシエイツ
金需要はリーマンショック前の年間約3,000トンから、ここ10年は4,000トン強で推移して来た。昨年は約4,500トンに達し、2019年第1四半期も対前年同期比で7%増加した。この需用の底上げを牽引してきたのは、投資分野である。 これまでの金需要を累積した地上在庫(地上で保有されているすべての金)で見ると、全体に占める投資分野の割合は2010年の18.5%から2018年の21.3%に上昇している。逆に、宝飾分野のシェアは、同時期に49.9%から47.6%に低下している(図表1参照)。ただ、宝飾分野の約60%を占める中国・インドの需要は、投資目的を兼ねての購入であることがほとんどであることに留意していただきたい。
図表1(金の地上在庫)
地上在庫の推移(トン)
分野別金地上在庫の推移
出所:Metals Focus; Refinitiv GFMS,; World Gold Council ~ World Gold Councilホームページより作成
投資分野の成長を理解するキーワードは、“防衛資産としての金”である。需要を詳しく分析すると、機関投資家も、中央銀行も、消費者も、うまく金を活用していることが分かる。現在の投資環境は、不確実性が高い政治・経済・金融情勢という表現で総括できる。そのため、多くの投資家はリスクヘッジの必要性を感じている。また、金は何も産まない資産と言われてきたが、実は中・長期のパフォーマンスは悪くないこともよく知られるようになってきたことが影響している(図表2参照)。
図表2(金の投資リターン)
出所:Bloomberg; ICE Benchmark Administration, World Gold Council
まず、世界の主要中央銀行は、かつてない規模の量的緩和金融政策に加え、マイナス金利・低金利政策を導入している。このような政策下では、債券投資は困難になり、ポートフォリオ投資における債券の投資分散効果(特に対株式において)が大きく低下する。株価と連動しない金は、債券の分散効果を代替するものとして、機関投資家に評価された。また、英国の欧州連合からの脱退、トランプ政権の予測可能性、ポピュリズム政治の台頭、北朝鮮問題、米国とイランの対立、米中貿易戦争、中国経済の失速、世界規模の債務膨張、クレジットサイクルの反転、高株価に対する警戒など、マクロ政治・経済リスクに対する懸念がなかなか低下せず、それに対する備えを行う必要性を感じる機関投資家の数が増え、金のリスクヘッジ効果に着目した(図表3参照)。
図表3(投資における金の役割)
中央銀行も、ポートフォリオ投資に果たせる金の役割に注目した投資家グループである。中央銀行セクターは2018年にニクソンショック以降で最高の金購入量を記録した(図表4参照)。中央銀行の金購入が加速した背景は、マクロ政治・経済環境の不確実性が中短期的に終息しない、そのため、ドルやユーロなどの主要通貨への依存度を下げ、外貨準備における通貨分散を進める必要性があるとの判断である。金は主要通貨、特に米ドルと長期にわたり負の相関関係にあるため、分散効果を持つ資産として積み増しされた。また、ロシアは欧米からの経済制裁に対抗するため、金の蓄積を大幅に増やした。ロシアは、金を「国の対外資金流動性を支える不可欠な資産」と位置付け、どの国にもコントロールされることなく、かつ、非常時にも値崩れせず換金できる金の流動性を評価しての施策である。
図表4(中央銀行の金購入)
出所:Metals Focus; Refinitiv GFMS,; World Gold Council ~ World Gold Councilホームページより作成
多くの国の消費者も、金と賢く付き合っている。各現地通貨の金価格は、米ドル為替レートの変動の影響を受け、変動する。現地通貨の価値が対ドルで低下した時、現地通貨ベースの金価格(=ドルベースの金国際価格x現地通貨対ドル為替レート)は上昇する。したがって、自国通貨の下落による自国通貨ベース資産の価値低下をヘッジする役割が果たせる。通貨変動の激しい地域(例えば、トルコ、イラン、インド)だけでなく、自国通貨の長期方向性を心配する国(例えば、英国、中国)の消費者は、資産防衛目的で金を購入する動きが加速している。また、金融政策の手詰まりからハイパーインフレが発生する危険性があることに対する警戒感を持つ国(例えば、ドイツ、日本)もあり、テールリスクヘッジやインフレ効果がある金に対する期待が高まっている。
マクロ環境の不確実性が根本的に低下しない限り、多くの投資リスクをヘッジできる、防衛資産としての金の需用はますます伸びていく可能性が高いのではないだろうか。
森田アソシエイツ 森田 隆大(もりた たかひろ)
ニューヨーク大学経営大学院にてMBA取得。1990年にムーディーズ・インベスターズ・サービス本社(ニューヨーク)にシニア・アナリストとして入社。2000年に格付委員会議長を兼務。2002年に日本及び韓国の事業会社格付部門の統括責任者に就任。2010年にワールド・ゴールド・カウンシルに入社、翌年、日本代表に就任。金ファンダメンタルズおよび投資における金の役割に関する調査・研究の提供、および投資家との直接対話を通して、金投資の普及活動に取り組む。
2016年に森田アソシエイツを設立、ワールド・ゴールド・カウンシル顧問を兼務。現在、埼玉学園大学大学院客員教授、特定非営利活動法人NPOフェアレーティング代表理事、MSクレジットリサーチ取締役兼評価委員会議長も兼任。立命館大学金融・法・税務研究センターシニアフェロー、法政大学大学院兼任講師を歴任。
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