新興国経済に改善の兆しが見られます。資源価格が反発ないし底這いの動きに改善してきたことや、米国経済が改善してきたことが背景にあると考えられます。グローバルな資金フローでも新興国株式への流入が定着しており、注目できるでしょう。新興国株式は年初来先進国株式を10%アウトパフォームしましたが、11年来では依然として大幅アンダーパフォームです。両者のPERには大きな格差が残っており、新興国株式の上昇余地は大きいと考えられます。足元で進む米国の利上げ期待の高まりは新興国資産への懸念を高める可能性はあるものの、経済が減速していた昨年までと状況は異なると考えられます。
図表1:新興国株式のETF
銘柄 | 株価 (8/30) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
(新興国株式ETF) | |||
iシェアーズ MSCI エマージング ETF(EEM) | 36.94ドル | 37.98ドル | 27.61ドル |
バンガード FTSEエマージングマーケッツETF(VWO) | 37.69ドル | 38.67ドル | 27.98ドル |
SPDR S&P 新興国株式 ETF(GMM) | 59.91ドル | 61.52ドル | 44.81ドル |
ウィズダムツリーエマージングハイディビF(DEM) | 38.09ドル | 39.43ドル | 27.15ドル |
Direxion デイリー新興国株ブル3倍 ETF(EDC) | 63.17ドル | 68.71ドル | 28.44ドル |
(新興国株式の国別ETF) | |||
iシェアーズ MSCI インドネシア ETF(EIDO) | 25.43ドル | 26.88ドル | 16.52ドル |
iシェアーズ MSCI フィリピン ETF(EPHE) | 38.66ドル | 40.48ドル | 28.98ドル |
iシェアーズ MSCI タイ・キャップト ETF(THD) | 75.68ドル | 76.95ドル | 54.94ドル |
ヴァンエック ベクトル ベトナム ETF(VNM) | 15.18ドル | 17.98ドル | 12.39ドル |
iシェアーズ MSCI ブラジル・キャプ ETF(EWZ) | 33.78ドル | 35.06ドル | 17.30ドル |
iシェアーズ MSCI ロシア・キャップト ETF(ERUS) | 14.11ドル | 14.44ドル | 9.05ドル |
ウィズダムツリー インド アーニングスF(EPI) | 21.63ドル | 21.78ドル | 16.55ドル |
iシェアーズ 中国大型株 ETF(FXI) | 37.45ドル | 40.59ドル | 28.10ドル |
- ※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
新興国経済に改善の兆し! |
15年初から減速傾向が続いていた新興諸国経済に改善の兆しが見えてきました。
企業の購買担当者の景況を示す「新興国コンポジットPMI」は昨年末辺りから改善基調となっていましたが、7月に51.7ポイントへ大きく改善しています(図表2)。「先進国コンポジットPMI」が年初に低下して、そこから横ばいとなっているのに比べてモメンタムの良さが目立ちます。
鉱工業生産でも、伸び率の低下傾向が続く中国を例外として、16年に入って前年比マイナスからプラスへ転換、あるいは、ブラジルのように大幅なマイナスでもマイナス幅が縮小する、など改善傾向となる国が多くなっています(図表3)。
新興国経済が改善しつつある背景として、以下が挙げられるでしょう。
(1)資源価格が反発ないし底這いの動きに改善してきたことで本来の成長に回帰しつつある
(2)米国の経済成長に改善の動きがある
このような動きを受けて新興国株式へ投資資金が流入しています。図表4は新興国株式ETFの資金フローですが、15年には安定的な資金流出となっていたものが、16年3月からは流入傾向が定着したように見えます。
世界的に投資対象として新興国株式への注目が高まっていると見られます。
図表2:新興国PMIが急回復
- 注:マークイット社算出のPMI(購買担当者指数)です。PMIは企業の購買担当者に生産・受注・雇用状況などのアンケートを行い数値化したもので、50を中心に推移します。「コンポジット」は製造業とサービス業を総合していることを示します。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:鉱工業生産も改善している国が多い
- 注:中国は春節を理由に1月、2月のデータが発表されないことがあります。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4:新興国株式への資金流入が定着!?
- 注:米国上場の新興国株式ETFで出来高が多い「iシェアーズMSCIエマージング・マーケットETF」と「バンガード・FTSE・エマージング・マーケッツETF」の資金フローの月次推移です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
新興国株式のバリュエーションに上昇余地、米利上げも克服へ! |
新興国株式のパフォーマンスは16年に先進国株式を上回って好調です(図表5)。年初来では、先進国株式指数の+4%に対して新興国株式指数は+14%と10%ポイントの差がついています。
しかし、グラフに示した11年来では、先進国株式指数を100とすると新興国株式指数は58の水準に過ぎず、現値でも42%もアンダーパフォームした計算です。(1)で見たように新興国経済が改善する中では、まだ上値を試す可能性が高いと考えられるでしょう。
その根拠として、先進国と新興国のPER格差があげられます(図表6)。11年〜12年にPER格差は2倍前後でしたが、8/29(月)時点で先進国株価指数が17.5倍、新興国株価指数が13.5倍と4.0倍まで拡大しています。15年末の4.6倍からは改善していますが、まだ格差縮小の余地がありそうです。
一方、先週より米国で利上げ期待が高まっていることから、新興国資産からの資金流出の懸念もあります。昨年までは「米国の利上げ観測 → ドル高 → 新興国からの資金流出懸念」という経路で新興国資産はパフォーマンスが悪化していました。
しかし、
(1)年内に利上げがあるとしても1回で、今後の利上げペースもゆっくりと見込まれる
(2)昨年まで新興国経済は減速していたが、現在は改善しつつあり、かつてほど脆弱でない
そのため、米国が利上げする中でも新興国株式が上昇する可能性が高いと考えられます。
目先は9/2(金)の雇用統計に向けて利上げ期待が高まりつつある途上であるため、新興国資産に対する警戒は続きそうです。しかし、市場が利上げを織り込んだ時点では、投資チャンスとなるのではないでしょうか。
図表5:新興国株式のパフォーマンスが優位に転じたものの、まだ始まったばかり?
- 注:「新興国株価指数」÷「先進国株価指数」を計算して、11年初を100として指数化した相対株価です。先進国株価指数はMSCIの先進国株価指数(MXWO)、新興国株価指数は、MSCIの新興国株価指数(MXEF)によります。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表6:先進国と新興国のPERには大きな格差
- 注:先進国株価指数はMSCIの先進国株価指数(MXWO)、新興国株価指数は、MSCIの新興国株価指数(MXEF)によります。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
新興国株式への投資を考える |
新興国に投資する場合に、新興国株式を幅広く網羅する新興国株式ETFが利用できます。市場での出来高が多い代表的なものには、「iシェアーズ MSCI エマージング ETF(EEM)」 、「バンガード FTSEエマージングマーケッツETF(VWO)」などがあります。
新興国から国を選んで投資することも考えられます。図表7と図表8に主要新興国の株価指数と投資指標を掲載しています(米国は比較のために含めています)。特に注目できる市場として、以下が挙げられます。
◯ベトナム・・・昨年より外国人による不動産所有の解禁、外国人持株比率の撤廃、南部経済回廊の開通、TPPへの参加など国内経済のインフラ整備、海外からの投資誘致に力を入れています。ホーチミン・ハノイ両取引所の統合指数の創設も計画され、海外投資家の注目が高まりつつあると見られます。
◯フィリピン・・・国民の平均年齢が23歳と若く、人口は15年の1億人から35年には1億3,000万人に増加する見込みです。英語が得意なことを武器にコールセンターの受託などBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の成長に加え、周辺のIT分野への展開も注目されます。新興諸国の中でも特に質の高い成長が期待される国と言えるでしょう。
◯タイ・・・一時混乱していた国内政治が安定するにつれ、観光などサービス業が立ち直り、国内経済が回復に向かいつつあります。GDP成長率は15年10-12月期の前年比2.8%増、16年1-3月期の同3.2%増、4-6月期の同3.5%増と伸び率が高まっています。
◯インドネシア・・・所得水準が低いために構造的な成長力が高く、6%程度の潜在成長力がある経済です。商品市況の低迷でGDP成長率は前年比4%増まで低下していましたが、そのマイナスの影響が緩和するにつれて6%台に向けて回復しつつあります。物価上昇率の落ち着きを受けて利下げも進み、株式の投資環境は良好です。
◯ロシア・・・輸出額の7割を原油・天然ガスが占めるため、原油価格の回復が恩恵となっています。経済は引き続きマイナス成長ですが、マイナス幅は縮小しつつあります。欧米諸国から経済制裁を受けているなどリスクは高い経済ですが、その分予想PERは7倍台と非常な低水準でバリューがあると考えられます。
【ご参考:本年掲載の新興国株式に関連する特集レポート】
6/8掲載 「ベトナム株式が好調、しかし、実力発揮はさらにこれから?」
4/20掲載 「どうなる米ドル!!「ドル高修正」で買われる資産は?」
3/16掲載 「FOMC後、どうなる海外株?新興国市場への資金流入定着!?」
3/9掲載 「原油価格の底入れで反発機運が高まるロシア株式」
3/2掲載 「成長回復、物価安定で投資チャンスを迎えるインドネシア」
1/27掲載 「“波乱”後の投資先は?高成長のフィリピン、ベトナム、回復のタイに注目!!」
1/20掲載 「年初来大幅下落の中国株式市場は投資のチャンス!?」
図表7:主要新興国の株価指数
- 注:ベトナムはベトナムVN指数、フィリピンはフィリピン総合指数、タイはタイSET指数、インドネシアはジャカルタ総合指数、ロシアはRTS指数(ドル建)、ブラジルはボベスパ指数、インドはSENSEX指数、中国は上海総合指数、米国はS&P500指数によります。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表8:主要新興国の株価騰落と投資指標
【主要世界株価指数】 |
直近株価 |
同5日間 |
同1日間 |
同年初来 |
予想PER |
同来期予想 |
PBR |
予想配当 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ベトナムVN指数 |
672.67 |
+2.05 |
+3.13 |
+16.17 |
16.50 |
13.85 |
1.91 |
2.49 |
インドネシア ジャカルタ総合指数 |
5,362.32 |
-1.01 |
+2.81 |
+16.75 |
17.61 |
15.07 |
2.47 |
1.83 |
タイ SET指数 |
1,546.13 |
+0.39 |
+1.45 |
+20.04 |
16.38 |
14.54 |
1.94 |
2.96 |
マレーシア KLCI指数 |
1,678.06 |
-0.30 |
+1.50 |
-0.85 |
16.73 |
15.50 |
1.75 |
3.10 |
フィリピン 総合指数 |
7,794.93 |
-2.33 |
-2.11 |
+12.12 |
19.97 |
18.16 |
2.59 |
1.62 |
ブラジル ボベスパ指数 |
58,575.42 |
+0.96 |
+2.21 |
+35.12 |
15.12 |
12.32 |
1.50 |
2.75 |
インド SENSEX指数 |
28,343.01 |
+1.26 |
+1.04 |
+8.52 |
17.75 |
14.95 |
2.93 |
1.58 |
中国 上海総合指数 |
3,074.677 |
-0.49 |
+3.20 |
-13.12 |
14.41 |
12.75 |
1.74 |
1.97 |
ロシア RTS指数(ドル建) |
958.67 |
-1.40 |
+3.35 |
+26.63 |
7.22 |
6.21 |
0.79 |
4.44 |
S&P500指数 |
2,176.12 |
-0.49 |
+0.12 |
+6.47 |
18.52 |
16.37 |
2.87 |
2.13 |
東証株価指数 |
1,312.81 |
+1.18 |
-0.75 |
-15.15 |
13.36 |
12.58 |
1.16 |
2.26 |
- 注:直近株価は8/30です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成